設計者CAEの取り組みで“再定義”すべき3つの項目設計者CAE教育のリデザイン(再設計)(5)(3/3 ページ)

» 2024年07月04日 08時30分 公開
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3.CAE教育の再定義

 CAEの教育方法は、CAE活用の定義によって大きく変わります。作る料理によってレシピが異なるのと同じです。

 王道を最適化する方法を採用するにしても、ステルスCAEを目指して解析の自動化/自律化を行うにしても、共通で考えなければならない項目があります。

(1)プロセス視点の課題策定

 稚拙な例で恐縮です。

 「ドラクエ」(注1)でラスボスを倒すことは「目的」ではありません。目的は、ラスボスを倒すことによって得られる世界な平和です。CAEの目的は「解析の精度を上げる」ことではありません。「担保された精度で課題を解決できる手法を提供する」ことです。王道も、カプセルCAEも、サロゲートCAEも、そのための目標であり、手段です。

※注1:「ドラクエ」とは、スクウェア・エニックスのRPG(ロールプレイングゲーム)「ドラゴンクエスト」シリーズの略称です。

 本連載で何度も述べましたが、CAEツールの機能でできることと、設計が決められた期間の中で目標性能値を達成する手法を提供することは全く無関係です。設計者が抱えている課題をCAE専任者に相談しに来たときに、

その現象は、このCAEツールの機能では解析できない

では答えになっていません。設計者もそのような答えは期待していません。設計課題とCAEツールの機能をマッピングすべきではありません。設計課題を数値解析的に解決するためには、解析の難易度は関係ありません。課題が簡単に解決できさえすれば、それは計算式が組み込まれた「Excel」でもいいのです。

 徹底的にプロセス視点で課題に取り組むことが、CAE活用のはじめの一歩です。

(2)教育内容指針の作成は関係者全員で策定

 適当に教育項目をそろえて、教育をスタートするのは、受講者に対する教育内容の適合性や知識を習得する順番などの点でよくありません。講義要項を作成することを提案します。

 大学には、講義要項(シラバス)があります。講義を担当する教員が決められた期間の講義計画を学生に伝えるためのものです。この計画に従って講義を行います。講義計画を教員と学生との間で共有する、授業に関する契約書的なものです。講義要項には、講義名、講義内容、スケジュール、講義の狙いや目標、講義形式、必要な教材、評価方法などの情報が記載されています。

 教育は国策です。教育関係のフレームワークの資料は多数存在しますので、それを参考にします。

 講義内容を作成するに当たって、CAE活用のグランドデザインがあり、設計や製造の課題が明確になっている必要があります。

 講義要項の策定は、CAE専任者だけで行ってはなりません。内容がどうしても“CAE寄り”になってしまうからです。CAEを活用することによってQCD(品質/コスト/納期)の向上が見込まれる設計、製造などの関係者全員で講義要項を作成します。

(3)座学教育のオンライン化

 材料力学、有限要素法の基礎など、設計者として知っておくべき項目は必ず存在します。また、会社の製品の仕組みを説明する項目も必要でしょう。

 そのような座学教育は、徹底してオンライン化することを提案します。講師の教育に割く時間は圧倒的に短縮されます。受講者にとっても好きな場所で、好きなときに学習できるメリットがあります。もちろん、対面教育のように「熱量」まで伝えることは難しいですが、それは講演会など別の方法でカバーすればよいことです。

 ここで重要なのは、学習状況を管理することです。そのためには「LMS(Learning Management System)」上で教材を展開すべきです。教材の作成については、チャプター確認テストを実施したり、会社の経営層や名物設計者の直撮りメッセージをコラム的に挟んだりすることによって、構成上の演出を工夫します。

 持続可能な教材の作り方については、連載第4回の「教育コンテンツのデジタル化」を参考にしてください。

連載の最後に

 2年ほど前、お客さま先でがくぜんとしたことがありました。

 ある程度の大きさの企業ではCAEの専任部署があります。ある会社では、設計の繁忙期になるとCAE専任部署のほとんどの人たちが設計部署に一時的に異動させられ、CAEではなく設計を手伝っているのです。これは、CAEとそれに関わる人たちが軽視されている現れだと思っています。筆者の40年の努力も「焼け石に水」だったわけです。

 再定義したことを「実施」に移す際には、組織や社風の壁が立ちはだかることでしょう。

 CAEを活用することは、新しい技術や製品を開発するのと同じくらいの労力と時間が必要です。そして、その過程には、必ず教育があります。DXやAIなどの時代の技術を取り入れて、持続可能な設計/CAEと、設計者CAEの再定義を行うのが、まさに今です。

 最後になりましたが、本連載のまとめとして筆者がいつも心に描いているCAE活用の全体マップを掲載しておきます(図4)。

CAE活用の全体マップ 図4 CAE活用の全体マップ[クリックで拡大]

 本連載が、CAE教育の再定義の一助となれば幸いです。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました! (連載完)

⇒ 連載バックナンバーはこちら

著者プロフィール:

栗崎 彰(くりさき あきら)

1958年生まれ。金沢工業大学 建築学科 修士課程修了。2022年に合同会社ソラボを設立。1983年より米SDRC、仏Dassault Systemes、サイバネットシステムを経て40年間にわたり3D設計、CAEのコンサルティングに従事。数多くの企業で、3D CAD、CAEを活用した設計プロセス改革や設計者のためのCAE運用支援などを推進。技術系Webサイトで連載、機械学会、公設試、大学などで講演多数。著書に「図解 有限要素法はじめの一歩(講談社)」および同実践編、「バーチャル・エンジニアリングPart4 日本のモノづくりに欠落している“企業戦略としてのCAE”(共著)(日刊工業新聞社)」がある。

⇒詳しい活動内容についてはこちらをご覧ください。


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