CAEツールの導入のためには、CAEに知見を持つ人材が関わることになります。
その人たちがほぼ自動的にCAE専任者という役割を担うことになります。そして、会社からCAEの活用を広めることを指示されます。以下は筆者が見てきたCAE専任者の傾向です。あくまで一般論です。解析技術を高めるためには、これからもCAE専任者は必要不可欠です。
CAEの活用を計画するのは彼らです。計画の視点が、設計ではなく“CAE寄り”になります。例えば、CAE教育の計画目標を以下のように考えがちです。
これはCAE専任者目線の目標でありモノサシです。
実は筆者自身も約35年間、このような目標を掲げ、CAEツールの操作⇒講習会⇒サポートという王道でCAEの活用を働き掛けてきました。最初の15年ほどは、この方法で何とか回せましたが、ここ20年でこの方法が通用しなくなってきました。CAE専任者目線のモノサシが使えなくなった、というわけです。
筆者は長い間、CAE専任者として活動してきました。使っていたツールは「MSC Nastran」です。Superelement(部分合成法)やDMAP(Direct Matrix Abstraction. Program/マクロによるマトリクス操作)など、MSC Nastranの高度な機能を使って、複雑な解析を実行することでCAE専任者を名乗っていました。CAEツールが今ほどポピュラーでない時代はそれが許されていました。しかし、よくよく考えてみれば、これは単なるCAEオペレーターです。
今は、CAEツールの使い方を詳しく知っているだけではCAE専任者とはいえない時代です。設計者から丸投げされた解析を実施するだけであれば、それはオペレーターです。これからのCAE専任者は、CAEオペレーターではなく、CAEコーディネーターでなければなりません(図3)。
CAEコーディネーターは、以下のような資質が必要です。
連載第3回で「カプセルCAE」のような設計のためのCAE活用を提案しましたが、カプセルCAEの設計とディレクションは、CAEコーディネーターの資質がないとできません。CAEの活用をプロセス視点で捉える必要があります。
CAE専任者は、会社、組織、そして自分のために、自らの役割を再定義すべきです。
解析そのものについては、AI(人工知能)による「サロゲートCAE」の躍進があります。実験結果をシミュレーションモデルに取り込んで精度向上を計るデータ同化についても議論が盛んです。解析結果の妥当性を担保するためのデータサイエンスなど、CAEコーディネーターとして習得すべきテーマはいくらでもあります。1人で対応できる範囲を超えています。チームとしての役割も視野に入れて、CAE専任者の役割を再定義する必要があります。
CAE専任者のCAEは、私たちが理解しているCAEで、数値解析のことを指します。しかし、CAEコーディネーターのCAEは意味が違います。「CAE」という概念と言葉を提唱したJack Lemon(ジャック・レモン)氏は、CAEを数値解析だけではなく、もっと広義のものとして解説しています。CAEコーディネーターのCAEは、数値解析のCAEではなく、レモン氏の言うCAEです。本来のCAEについての解説は、以下の豊田中央研究所 小島芳生氏の論文の「1.CAEのあるべき姿とは」を参考にしてください。24年前に書かれたものですが、DX(デジタルトランスフォーメーション)時代の今でも十分に役立つ内容です。古さを感じないそれこそ、CAEが24年もの間、置かれてきた状況を示唆しています。
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