ポイント1を実現するためには、プロダクト企画を根本から見直す必要がある。それには(1)顧客体験を構想するところからスタートして、(2)ハードウェア+クラウドの両にらみで設計を行うことが重要だ。
まず(1)について。筆者がプロダクト企画を学んだAmazon.comでは、企画を進めるに当たって最初にやることは、プレスリリースを書くことだった。顧客にプロダクトをどう使ってもらい、どう感じてほしいかを、顧客を主語にして強制的に考える。これによって、顧客体験を書き下すことが目的である。
前回の記事で、デジタルネイティブIoTのクルマを勝手に妄想したが、あれも顧客体験の検討に当たる。ハードウェアの利用時だけでなく、クルマに乗る前後も含めて幅広く、顧客体験を考える必要がある。
そして(2)について。前回、IoTにはメカやエレクトロニクス、組み込みソフトウェア、クラウドソフトウェアの4要素があるとお話した。中でも設計の肝は、組み込みソフトウェアとクラウドソフトウェアの役割分担だ。特定の機能やデータをどちらの側で実現、保有させるかという設計次第で、全く異なるサービスになる。
カーナビを例に取ろう。組み込みソフトウェア、つまりハードウェアの側にのみ地図データの管理、更新機能を持たせると、道が変わる度にDVDなどで端末側のデータを更新する必要がある。一方で、クラウドソフトウェア側に持たせると、自動で最新地図がアップデートされていくといった次第だ。
筆者は、顧客体験が十分に検討されていない、あるいは、ハードウェアに限った顧客体験の検討がなされるケースがまだまだ多いと見ている。また、ハードウェアの設計ができる人と、クラウドソフトウェアの設計ができる人はそれぞれ多数存在するが、両方の知見を持って設計可能な人材は珍しいと感じる。
その結果、ほとんどのIoT製品で、「最高のハードウェアを作ったから、おまけでインターネットにつないでくれ」だとか、「クラウドソフトウェアは高機能なものができたがハードウェア開発は分からない。既存のハードウェア製品を買って、両者をつなぐことにしよう」といったプロダクト企画が行われている。今後は、組み込みソフトウェアとクラウドソフトウェアを両にらみでプロダクト企画できる人材を育てて内製化することが、IoTで最高の顧客体験を実現する必須要件になる。
IoTの用途としては、現実世界のデータを取得するためのセンサーとしての使い方が多い。「ハードウェア→クラウド」にデータが流れる使い方で、見えないものが見えるという意味で重要な使い方である。「いいIoT」はそれに加えて、「クラウド→ハードウェア」に作用して、司令塔としての使い方ができる。要は、一方向ではなく双方向に作用してこそ、いいIoTだといえるのだ。
スマートマットクラウドには、計測時間をクラウド上で一括変更できる機能がある。300枚のIoT重量計が動く現場で、今まで9時に計測していたものを、8時に変更したくなったとしよう。クラウドソフトウェアの画面上で、300枚を選択して一括で時間変更すれば、クラウドを介して300枚のハードウェアの計測時間を一気に変えられる。
もし、この変更機能がハードウェア側に実装されていると、1枚ずつのべ300回、ボタンを押す動作を繰り返さなければならない。クラウドソフトウェアが司令塔として動作することで、一気に利便性が高まる。
最後に筆者の思いをお伝えしたい。今後、製品であれ機械/設備であれ、インターネットにつながる全ハードウェアが「いいIoT」かどうかが問われる時代になるはずだ。そして「いいIoT」を企画、設計、製造できるメーカーが高い競争力を持つことになる。
日本の得意領域であるモノづくり、つまりハードウェアにインターネットが絡んでくる。この領域で、日本は絶対に世界に負けてはいけない。「日本のモノづくり」に、「いいIoT」の発想が組み合わされば鬼に金棒だ。ダントツで世界一の製品が作れるようになると信じている。筆者も「いいIoT」の普及に全力で貢献していきたい。(連載完)
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林英俊(はやし ひでとし) エスマット代表
ローランド・ベルガーで製造業中心に経営コンサルティング。Amazon.comで定期購入・有料会員プログラムの立ち上げ・グロースを経験。
スマートショッピング(現エスマット)を創業、リアルタイム在庫把握で現場カイゼンが可能な生産管理DX「スマートマットクラウド」を展開。DXやIoTに関する講演多数。
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