「金融勘定」を見れば国内経済のお金の流れが分かる! 資金融通の推移を調べようイチから分かる! 楽しく学ぶ経済の話(8)(1/5 ページ)

勉強した方がトクなのは分かるけど、なんだか難しそうでつい敬遠してしまう「経済」の話。モノづくりに関わる人が知っておきたい経済の仕組みについて、小川さん、古川さんと一緒にやさしく、詳しく学んでいきましょう!

» 2024年05月16日 05時30分 公開

小川さん:学生時代アメフトで鍛えた、体育会系機械エンジニア&金属加工職人。経済統計に興味があり、趣味で統計データを共有する情報発信を続けている。ラーメン好き(現役時代よりも体重が増えていることは家族に内緒)。


経済構造に詳しい古川さん: 元エリート銀行マンで、現在は起業しスタートアップの事業支援など、製造業を中心としたエコシステムの構築を進めている。大学の非常勤講師や、地域経済活性化のための委員なども務める。実は照れ屋。


(※)編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物、団体などとは一切関係ありません。

本連載「イチから分かる! 楽しく学ぶ経済の話」のバックナンバーはこちら!

古川さん、前回は固定資産への投資となる、総固定資本形成の中身について解説していただきました。


はい。日本はバブルの影響もあって、1990年代後半まで非常に高い水準の投資があったようですね。政府だけでなく、企業でもその傾向が確認できました。


結果的にそれだけ負債が増えていた、ということですね。


本来資本主義経済は、企業が負債を増やしながら、事業投資をして生産性を高め、付加価値や利益を増やしていく活動が基本ですよね。ある意味、先行投資をしていたような状況ということでしょうか?


そういった表現もできるとは思います。しかし、日本の場合は急激に投資を増やしすぎたことで、その後の企業活動の停滞も生まれたように見受けられます。それは、今回ご紹介する金融勘定を見ても明らかになると思いますよ。


フロー図の(7)金融勘定という部分ですね。ここに登場する純貸出/純借入(資金過不足)の項目が、前回学んだ資本勘定の純貸出/純借入と概念上一致する、と示されています。どういう意味でしょうか?


図1:(6)資本勘定と(7)金融勘定について 図1:(6)資本勘定と(7)金融勘定について[クリックして拡大] 出所:小川製作所

前回は、貯蓄を元手として、非金融資産の取得額を支払って余りが出れば純貸出、不足して資金を融通した分が純借入と説明しました。この非金融資産の変動額とは、実際に行われた取引や変化を金額で表したものにすぎません。


(6)資本勘定が非生産資産の変動分を表しているのに対し、(7)金融勘定では非生産資産の変動に対応した金融資産の変動分を表しているということですね。


ええ。例えば、会社で1億円の機械を全額借入金で購入した場合を考えてみましょう。


はい。


この場合、取得した機械は非金融資産において1億円の変動をもたらし、借り入れた1億円は金融資産の変動をもたらします。


一般的にはこのような非金融資産の取得には、1億円の借入(資金の融通)を行い、金額に換算して1億円に相当する機械を購入したということになります。


この取引は、会社の貸借対照表上で、資産側の固定資産が1億円分増えるとともに、負債側の借入金が1億円増えると記録されるはずですね。


ちょうど、非金融資産の増加と負債の増加が対になっています。それが(6)と(7)の違いということですね。


ざっくりとそのように捉えていただいてよいと思います。金融勘定は、金融資産や負債の変動から、純貸出/純借入を導き出すものです。つまり、お金の動きを追うことで、どのように資金を運用、調達していたのかが見えてくるわけです。


見る対象は同じでも、見方を変えるということですね。


金融勘定では、金融資産と負債を形態別に分けて集計しています。まずは、どのような項目があるのか確認してみましょう。


貨幣用金・SDR
Monetary gold and SDRs
貨幣用金、特別引出権(SDR)が含まれ、貨幣用金は通貨当局が所有権を持つ外貨準備として保有する金
現金・預金
Currency and deposits
現金は、中央銀行または政府によって発行または認定される紙幣や硬貨
預金には、流動性預金、定期性預金、譲渡性預金、外貨預金の他、日銀預け金、政府預金が含まれる
貸出・借入
Loans
金銭消費貸借契約や割賦販売契約などによって生じた金銭債権
日銀貸出金、コール・手形、民間金融機関貸出、公的金融機関貸出、非金融部門貸出金、割賦債権・債務、現先・債権貸借取引が含まれる
債務証券
Debt securities
発行主体に償還義務のある証券形態の金融債権
国庫短期証券、国債・財投債、地方債、政府関係機関債、金融債、事業債、居住者発行外債、コマーシャル・ペーパー、信託受益権、債権流動化関連商品が含まれる
持分・投資信託受益証券
Equity and investment fund shares
債券保有者が発行主体に対して残余請求権を持っているような金融資産
持分:株式会社の株式、特殊法人等に対する持分(出資金など)
投資信託受益証券:投資信託委託会社が、投資信託の購入主体に対して発行した受益証券、および投資法人の発行する投資証券
保険・年金・定型保証
Insurance, pension and standardized guarantees schemes
金融機関によって仲介される所得・富の死分配の一形態である保険・年金契約などにおける制度の参加者の債権
非生命保険準備金、生命保険・年金保険受給権、年金受給権、年金基金の対年金責任者債権、定型保証支払引当金が含まれる
金融派生商品・雇用者ストックオプション
Financial derivatives and Employee stock options 金融派生商品:特定の金融商品から派生し、原債権の元本部分について資金の授受行われない金融商品
フォワード系、オプション系から成る
雇用者ストックオプション:企業がその雇用者(役員を含む)に対して付与する自社株式の購入権のうち、権利が確定したがまだ行使されていないもの
その他の金融資産・負債
Other financial assets and liabilities
財政融資資金預託金、預け金、企業間信用・貿易信用、未収・未払金、直接投資、対外証券投資、その他対外債権・債務、その他

また難しそうな項目が並びますね!


さらっと眺めるだけで大丈夫ですよ。


持分/投資信託受益証券は、おおむね企業の発行する株式と考えれば良いと思います。実は企業の発行する株式は、出資した人たちの金融資産であるとともに、その企業の負債でもあります。非常に大きなポイントとなるので、覚えておいてください。


つまり会社の持ち分を株主に与え、利益を配分する義務を負うということですね。


その通りです。株式は出資者の持分なので、国民経済計算では企業の負債として扱われます。通常の企業会計とは捉え方が異なる部分ですね。


債務証券は、政府の場合は国債、企業の場合は事業債/社債などですね。年金/保険/定型保証は、将来受け取るはずの年金や保険の権利分と考えれば分かりやすいですね。大きく、現金/預金、貸出/借入、株式、債務証券、年金/保険があるということです。


貨幣用金/SDR、金融派生商品/雇用者ストックオプションはほとんど計上されていませんので、ここでは気にしなくて良いです。


なるほど。そう考えると、なじみやすそうです。


       1|2|3|4|5 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.