「EVは構造が単純」のウソとホント、理由は「最小単位」にありいまさら聞けないクルマの仕組み(1)(2/3 ページ)

» 2024年05月07日 06時00分 公開
[瀬戸鈴鹿MONOist]

HEVやPHEVは「中間の存在」である

 先ほどさらりと流しましたが、HEVやPHEVは純ICE車の考え方をベースに構築したプラットフォームに要素を加えれば、同様の考え方でICE車の派生仕様としてつくることができます。理由は先にEVについて述べた内容と同じですが、HEVやPHEVはバッテリーが比較的小さくて済むという違いがあります。PHEVであれば、エンジンを使わないEVモードで100km程度走ればよいと割り切ってバッテリーを小さくできるので、燃料タンクと位置関係を工夫して組み込んでやれば成立させることができます。

 また、FCV(燃料電池車)については、水素を使用していることからイロモノとして捉えられがちですが、一般的なHEVの内燃機関を燃料電池に置換した思想で成立します。概念的には、HEVとFCVは互いの亜種として存在しているといえます。内燃機関をメインとしているか、燃料電池をメインとしているかの違いはあれ、両方とも「主機で発したエネルギーを利用しつつ、モーターによって効率的に走る」からです。

概念的には、HEVとFCVは互いの亜種として存在している。内燃機関をメインとしているか、燃料電池をメインとしているかの違いはあれ、両方とも「主機で発したエネルギーを利用しつつ、モーターによって効率的に走る」[クリックで拡大]

 もちろん、水素タンクや燃料電池スタックなど、デバイスのレイアウトは簡単に成り立つものではありませんが、ICE車ベースのプラットフォームで量産が成立している事例があるのも確かです。

「EVにしかできない」のウソ、「EVが最も安全」は本当か

 さて、今まで概念的なプラットフォームの組み合わせについて話してきました。そこで述べてきたのは主に「純ICE車とEVが最小単位」で「HEVやFCEVは中間の存在」ということです。では、機能的に見たとき、EVにしかできなくて他は対応できないことがあるのでしょうか? 結論から言えば「No」です。EVにできることであれば、大抵HEVやPHEVでも対応できます。

 仮に量産車でできないことがあるとすれば、それはコストとメリットが両立しないから採用していないだけだと考えられます。例えば、「EVはコネクターによって充電できるが、HEVには外部から充電する機能がない」というケースは、バッテリー容量だけでは数kmしか走れないようなHEVに、外部からの充電装置を付けたって値段が高くなるだけでメリットは少ないですよね。ユーザーメリットが見いだせないわけです。

 「モーターはエンジンより制御を細かくできるから、EVは動的に安全」。これも間違いではないですが、結局HEVでもできることです。そもそも、この話で重要になってくるのは出力側であるモーター制御の細やかさより、「読み取り能力」の細やかさです。

 日本市場において一般的に販売されている自動車用のトラクションモーターには「レゾルバ」という回転角センサーが搭載されています。発進時のモータートルク振動を抑えて滑らかに発進するためのセンサーです。このセンサーの分解能はエンジンのクランク角センサーやホイールの回転角センサーより桁違いのオーダーで細かく測定できるため、微低速時の車両制御で有利に使える……という話なのです。

 つまり、トラクションモーターを搭載した車両は雪上や氷上などの低ミュー路において、レゾルバのおかげで発進時の空転がより少ない傾向に制御できます。繰り返しますが、「トラクションモーターを搭載した車両」はEVである必要はなく、一般的にHEVでもトラクションモーターとレゾルバは搭載しています。つまり、HEVやPHEVでも同様の制御は可能なのです。実際、国産車のHEVで雪上や氷上でのスリップ制御が優秀なモデルは多数存在します。

日産自動車の「ノートe-POWER 4WD」。HEVの4輪駆動だが、低ミュー路におけるドライバビリティの高さは試乗会でプロをもうならせる出来栄えだ[クリックで拡大] 出所:日産自動車

 また、コストを考えなければ純ICE車にもレゾルバを搭載して高精度に読み取るようにすることは可能です。しかし前半で述べた通り、基本的にコストとメリットのバランスが見合わないので採用される事例は今のところなかったと記憶しています。

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