MWC 2024では、スマートフォンを含むパーソナルデバイスのUI(ユーザーインターフェース)や形状、操作性などの進化が加速しているという印象を受けました。これについて筆者は、生成AIの登場が影響していると考えています。これまでのAIはユーザーが使う機能の裏側で動作しており、多くのユーザーは無意識のうちに利用している状態でした。生成AIの登場で、ユーザーは意識的、意図的にAIを利用し始めるようになります。そこで、デバイスに搭載された生成AI機能やUIの操作性、デバイス性能が改めて注目されるようになったのです。
SK TelecomやEtisalatが展示していたAIロボットは、生成AIが日常生活の中で活用される分かりやすいUIの形かもしれませんが、パーソナルデバイスもまた、携帯できるパーソナルアシスタントのような位置づけにシフトしてきたと言えるかもしれません。
パーソナルアシスタントとしてのデバイスは、その操作性が重要視されます。ユーザーがより簡単に操作できる形状や入力方法が求められており、デバイスメーカー各社の展示でも、開発に注力していることが分かりました。
まずは形状について、改めてウェアラブル端末に注力するメーカーが目立っていました。Lenovo/MotorolaやSamsungは、手首などに巻き付けられる曲がる携帯電話を展示しました。サイズ的には通常の携帯電話と同等で、腕時計とはいえないサイズ感ではありますが、常に身につけ、すぐに操作できるというコンセプトは理解できます。Humaneによる「AI Pin」の展示も注目されていました。こちらはQualcommのSnapdragon(2.1GHz、4GB RAM、32GB eMMC(※1))を搭載し、SIMも内蔵しているため単独で通信が可能です。胸元に装着するデザインで、付属の磁石で服を挟み込むかクリップで挟んで身に着けます。サイズもApple Watchより少し大きい程度で、装着しても違和感はありませんでした。
※1:Humaneの公式サイト
AI Pinは、操作性のもう1つの要素である入力方法についても特徴があります。キー入力からタッチスクリーン、そして音声などのタッチレスと、パーソナルデバイスの入力方法は進化してきました。これに加えてAI Pinでは、音声に加えてジェスチャーによる操作も可能です。AI Pinの出力は主に音声ですが、デバイスには小型のプロジェクターも搭載されています。手のひらをデバイスの前にかざすことでスクリーンとなり、てのひらに画面が投影される仕組みです。この画面を投影したまま指を動かすことで操作可能になり、例えば親指と人差し指でゼロを作るような動きをすると画面送りができます。AI Pinは現在米国でのみ販売されていますが、時期未定ではあるものの、日本での発売も予定されているとのことです。
タッチレス操作については、Honorが発表したMagic 6 Proの視線による操作(Eye Tracking機能)も話題となっていました。スマートフォンの画面上のボタンなどに視線を向けることで、そのボタンを選択できる仕組みです。筆者は体験できませんでしたが、特設会場では、Magic 6 Proの操作画面から乗用車を操作(進む、止まる、戻るなどの単純動作のみ)するデモも実施されていたようです。このような操作性を高める新たなUIや入力方法の出現で、スマートデバイスがまた大きな変革期を迎えるかもしれません。
MWC 2024レポート前編では、通信業界に見る生成AIのトレンドを紹介しました。生成AIの登場で、ネットワーク、デバイス、オペレーション、全ての領域で生成AIの活用を前提とした変化が見られました。特に、コンシューマー向けデバイスについては、オンデバイスAIが主要プレイヤーの展示スペースの大半を占めており、また新たなデバイスの登場も会場をにぎわせていました。成熟期にあるスマートフォン領域で、新たな進化が見られるかもしれません。
また、多くの講演や展示ブースで具体的な生成AI活用事例が紹介されており、企業におけるAIの活用が過去にないスピードで進化している印象を受けました。
次回MWC 2024レポート後編では、通信業界における生成AIの具体的な事例や課題などにも触れ、MWC 2024での動向をより詳細に見ていきます。
米国・日本のICT業界で20年以上の経験を持ち、通信、メディア、製造業においてビジネス変革プロジェクトに多数従事。システム開発から業務コンサルティング、経営企画・新事業開発まで幅広い業務を担当。現在は、通信・メディア領域における企業の変革を多角的な視点で支援。
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