次に購買力平価換算値での国際比較をしてみましょう。購買力平価は、各国で売買されているモノやサービスの価格を基に、各国間の通貨の理想的な換算比率を計算したものです。
GDPの換算にはGDP用の購買力平価(Purchasing Power Parities for GDP)が計算されていますが、賃金などの分配面の換算には民間消費の購買力平価(Purchasing Power Parities for private consumption)が使用されます。
購買力平価でドル換算を行うということは、各国の物価水準を米国並みにそろえた上で、数量的な水準を金額(ドル)で表現することになります。なかなか理解するのが難しい指標ですが、為替レートで換算するよりも、より生活実感に近い数値として捉えれば良いと思います。
図4が主要先進国の平均時給について、購買力平価でドル換算した推移です。日本(青)は主要先進国の中では低い水準が続いています。近年では韓国に抜かれ、他の主要先進国やOECDの平均値との差が大きく開いています。
さらに、為替レート換算では1990年代は高い水準となっていましたが、購買力平価換算では特にそのような状況は見受けられません。この時期は、極端に円高になっていた事もあり、他国から見れば日本の物価は非常に高くなっていました。例えば、ピークの1995年では米国の1.85倍でした。
為替レート換算値ではこの物価高の分だけ数値が大きくなっていましたが、数量的な比較をする購買力平価換算値ではならされています。つまり、当時の日本は給与水準も高かったけど、物価水準も高かったので、実際に買うことのできるモノやサービスの数量はそれほど多くはなかったという事になります。生活実感としては、為替レートでの数値ほど豊かだったわけではないということですね。
ただし、当時は他国と比べて先端的だったり高機能・高品質なモノやサービスを購入し消費していた可能性もあり、それがどこまで購買力平価に反映されているかは定かではありません。実態に対して過少または過大に評価されている可能性も含みつつ、より実感値に近い数値と捉えれば良いと思います。
最後に、2021年の状況についての国際比較もしてみましょう。
図5は平均時給の購買力平価換算値についての、2021年の国際比較結果です。日本は22.1ドルで、OECD34カ国中24位、G7中最下位となっています。韓国に抜かれ、OECDの平均値27.5ドルを下回ります。
為替レート換算値よりも、国際的な順位が低下していることになりますね。また、イスラエルや東欧諸国との差もかなり縮まっています。購買力平価換算値でも、日本の水準は先進国でかなり低いという事になります。
今回はOECDの統計データから平均時給を計算した結果をご紹介しました。
日本の平均時給は停滞気味ですが、近年では少しずつ上昇している点は良い兆しとも言えますね。失われた30年と言われつつも、多くの経済指標で2010年代からは名目値での上昇が確認できるように変化しています。平均時給もやっと1997年のピークを上回る水準にまで持ち直しました。
ただし、国際比較してみると、他国はさらに上昇しており、相対的には米国をはじめ他の主要先進国との差は開いています。逆に、東欧諸国などには追い挙げられている状況で、国際的な順位は低下していますね。
すでに平均時給でも、日本は先進国で低い水準である事は驚かれた方も多いのではないでしょうか。
「賃上げ」という言葉を毎日のようにニュースなどで聞くようになりました。日本の平均時給が今後どのように変化していくのか、皆さんも是非注目してみてください。
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小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業などを展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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