次のC8「不確定性手法」は、タグチメソッドやシックスシグマ手法に代表されるロバスト設計や、モンテカルロ法、信頼性設計手法をどの程度活用できているか、という設問になります。この分布もC7と傾向は同じです。C7で3点であったところの半分が2点領域に移動したと見ればいいでしょう。実験計画法/設計探索も実施していない状況では、不確定性手法が広がることはないので、当然の傾向となります。
日本の場合、田口玄一先生が開発されて命名されたタグチメソッドは品質工学会を中心に発展してきているように見えますが、実際のところはまだ一部の企業での適用にとどまっています。熱心なリーダーがいて組織的に実施できている企業は、有効に活用しているのですが、残念ながら世代が変わったり、組織の優先度が変わったりすることで、活動が廃れてしまうという傾向が見られます。せっかく培われたタグチメソッドの技術も文化も組織も消えるか、ほそぼそとしか継続されないか、という状況になってしまうのです。まさに、ガバナンスの欠如という他ありません。ロバスト設計の技術ははやり廃りや、リーダーの好みで進めるものではなく、世代が変わっても担当者が変わっても製品が変わっても、組織のコア技術として成熟させていくべき技術なのです。
次のC9「代理モデル/AI(人工知能)」の分布も、C7とほぼ一致しています。なぜなら、実験計画法などで生成されたデータがなければ、代理モデルも作成できないからです。昨今のデータサイエンスの勃興は、既に大量のデータが存在するあらゆる社会活動、人間活動に適用されてきています。エンジニアリングの世界においても、第一原理計算(=シミュレーション)から出発できるマテリアルズ・インフォマティクス(MI)の領域では、まさにデータサイエンスの最先端領域の一つになっています。
そうした世の中の大きなうねりの中で、CAE(エンジニアリングシミュレーション)の世界では、データサイエンスを指向したスピードが非常に遅く見えてしまうのです。研究機関や一部の企業の先進的な組織や優秀なエンジニアは素晴らしい仕事をしているのですが、こと実現場への展開となると、遅々として進んでいないというギャップが見えるのです。
最後の図は、今回のテーマである活用手法のイメージを分かりやすく示しています。過去の経験や従来のノウハウが通用しない、もしくは存在しない領域で設計を行うには、このようなデータ空間で思考することが求められます。「データサイエンス」という大げさな言葉を使わずとも、まずは、設計空間で考え、解空間で判断し、その結果を設計空間に戻して再検討するという、技法と思考プロセスを身に付けることこそが、出発点となるのです。
今回の活用手法に関連して、毎度参照している「デザインとシミュレーションを語る」ブログの該当する箇所は下記の通りです。あらためてお読みいただけると、さらに理解が深まることと思います。今回かなり、多くのリストになっているのは、活用手法の各テーマが非常に重要であることの証です。
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工藤 啓治(くどう けいじ)
スーパーコンピュータのクレイ・リサーチ・ジャパン株式会社や最適設計ソフトウェアのエンジニアス・ジャパン株式会社などを経て、2024年1月まで、ダッソー・システムズに所属。現在、個人コンサルタントとして業務委託に従事。40年間にわたるエンジニアリングシミュレーション(もしくは、CAE:Computer Aided Engineering)領域における豊富な知見やノウハウに加え、ハードウェア/ソフトウェアから業務活用・改革に至るまでの幅広く統合的な知識と経験を有する。CAEを設計に活用するための手法と仕組み化を追求し、Simulation Governanceの啓蒙(けいもう)と確立に邁進(まいしん)している。
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