デジタルツインを実現するCAEの真価

Simulation Governanceの活用カテゴリー「活用手法」の診断結果シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜(8)(2/3 ページ)

» 2024年03月05日 09時00分 公開
[工藤啓治MONOist]

活用カテゴリーの「活用手法」に着目

 それでは、ようやく本題の活用手法に関する、各項目の詳細データとヒストグラムを示しながら、診断結果の分析に入りましょう。

「活用手法」の診断結果平均、標準偏差、最大 図2 「活用手法」の診断結果平均、標準偏差、最大[クリックで拡大]
「活用手法」の診断結果ヒストグラム 図3 「活用手法」の診断結果ヒストグラム[クリックで拡大]

C6「自動化プロセス」

 活用手法カテゴリーの平均値2.1は、9カテゴリーの中で2番目に低い数字です。その低さを端的に表しているのが、C6自動化プロセス」です。設問は“(代表的なCAEソフトの解析手順を想定して)計算手順の自動化はどこまでされているか”となっており、ヒストグラムを見れば一目で分かるように、Level1が最も多く、平均値は1.6です。実際のところは、自動化がいかに実施できていないかが示されています。前々回で説明したB7手順の標準化」の平均値も1.9と低かったことから、解析ワークフローの標準化が進んでおらず、結果として自動化も進んでいないという連鎖があることが推察できます。

 先ほど、航空機産業では高度な自動化が進んでいるという例を紹介しましたが、そうしたメーカーにおいても、1990年代は未着手だったわけで、10〜20年かけて自動化のレベルを上げ、適用範囲を広げてきたのです。ジェットエンジンは究極の複合領域(物理)最適化問題の世界とされており、さまざまなシミュレーションモデルを駆使して自動化することなしには設計問題そのものが解決できないという切実な状況にあったとしても、標準化と自動化を行うために、それ相応の時間と努力が必要であることは、他の産業と変わらないのです。

 実際の適用に際しては、モデル化や手順が複雑過ぎて自動化に向かないか困難な問題なのか、あるいはそうした技術開発力と努力が足りていないという現実なのか、正しく技術的に判断して見極める必要があるでしょう。少なくとも、複合領域(物理)最適化問題が(研究機関ではなく)企業で行われている事例を見ることはほとんどないことが実情ですが、実はもう10年以上前にIsightユーザーであったある会社が、膨大かつ複雑なワークフローを活用しているケースを見たことがあります。欧米でのIsightの事例に鼓舞された結果、数年かけて構築されたその技術はあまりにも高度過ぎて、技報にも掲載できない機密事項なのだということで、画面をちらりと見せていただけでそれ以上話を聞くことができませんでした。ただ、日本でもその気になれば、欧米に負けずに十分できるのだという証拠を目にしましたので、とても意を強くした覚えがあります。ここに記しておく価値はあるでしょう。

 ですので、自動化率が少ない背景には、自動化作業が簡単ではないということはあるにせよ、自動化をすればこんなにすごい世界があるという事実が、いまだに認識されていないが故に、そのための技術努力が払われていないことに要因がある気がします。非常にもったいない話です。設計の品質と生産性の向上を図るまたとない技術であるにもかかわらず……です。

C7「実験計画法/設計探索」

 C7実験計画法/設計探索」の分布はとてもユニークで、Level3“一部のエンジニアが使っている”が最も多く、その次に多いのは、Level1“ほとんど知識と経験もない”となっています。実験計画法は、従来のパラメータスタディ、昨今データサイエンスと称されている大量のデータを合理的に分析する技術にとって、初歩の初歩であることを考えれば、かなり厳しい現実を示しているといえるでしょう。非常に大きな危機感を覚える状況です。こうした技術が、もとより欧米では設計者の常識であり、中国、インド、韓国など急速に成長している国々のエンジニアは貪欲に急速に吸収していることを考えれば、大いなる憂いを感じてしまうということを吐露せざるを得ません。

 図4は、自動化が進展していくことで、設計探索ができるようになり、複合領域最適設計という世界も構築できるということを示しています。

設計自動化の段階的高度化 図4 設計自動化の段階的高度化[クリックで拡大]

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