Simulation Governanceの技術カテゴリー「ノウハウ活用」の診断結果シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜(6)(1/2 ページ)

連載「シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜」では、この10年本来の効果を発揮できないまま停滞し続けるCAE活用現場の本質的な改革を目指し、「Simulation Governance」のコンセプトや重要性について説く。引き続き、各サブカテゴリーの項目のポイントやレベルの意味を解説しながら、詳細な診断データを眺めていく。連載第6回では、技術カテゴリーの中で「モデルと計算」とペアになる「ノウハウ活用」に着目する。

» 2024年01月15日 08時00分 公開

 ダッソー・システムズの工藤啓治です。前回は、技術カテゴリーの「モデルと計算」の診断結果について詳しく分析しました。今回は、技術カテゴリーの中で「モデルと計算」とペアになる「ノウハウ活用」に焦点を当てます。

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技術カテゴリーの「ノウハウ活用」に着目

 CAE業務では属人性の問題を避けて通ることはできません。「職人的な作業の塊である」と言っても大げさではないことを同意していただけるでしょう。高度な「モデルと計算」技術は人に身に付いていくわけですが、同時に組織の観点では属人性をなるべく最小限にして、合理的にマネをして同じ作業と結果を他の人でも出せるように“標準化”したいわけです。そして、さらに誰にでもできるようシステムに組み込んで自動処理する仕組み(自動化)にできないかを考えるわけです。

 属人化を属人化たらしめているのは、これまた抽象的な“ノウハウ”というモノやコトになります。今回は、このノウハウが組織として標準化できているか、汎用(はんよう)性を持った技術として育成できているか、という視点で分析します。

 前回同様、各項目の詳細データとヒストグラムを以下の図表に記します(図1図2)。ノウハウ活用は、活用手法、管理の仕組みとともに平均点の低い領域ですので、しっかりとその詳細を分析する必要があります。

「ノウハウ活用」の診断結果平均、標準偏差、最大 図1 「ノウハウ活用」の診断結果平均、標準偏差、最大[クリックで拡大]
「ノウハウ活用」の診断結果ヒストグラム 図2 「ノウハウ活用」の診断結果ヒストグラム[クリックで拡大]

B6「モデル標準化と共有化」

 B6「モデル標準化と共有化」の設問は、「(代表的なCAEソフトの解析モデルを想定して)モデル技術の標準化に関するドキュメント化とシステムでの共有化は行われていますか?」です。ポイントはモデル化技術というノウハウが、ドキュメントとして形式知化されているかどうかと、それが紙ではなく電子化されてシステムの上で閲覧できる状態になっているかです。

 ヒストグラムを見てみると、“レベル4:ドキュメント化され、システムで共有できている”、もしくは“レベル5:ドキュメントの更新履歴と変更理由、変更者もひも付けられている”に達していると回答しているのは1社のみで、ほとんどが“レベル2:ドキュメント化されているのは一部の領域”、もしくは“レベル3:ドキュメント化は十分にできているが、共有フォルダに置く程度”という状況です。

 実際のところ、標準化しづらいモデル化技術がかなりを占めているという場合もあり得ると思いますが、仮に標準化が可能であるはずなのにできていない、ということであれば、ノウハウ共有の最も根本的なところに課題があることを意味します。「できないこと」と「できるはずなのにやっていないこと」は大きく異なりますので、回答の中身としての“できない”状況については、本来であればもっと詳しく見たいところです。少なくとも、頭の中にしかないコトを外に出し、他人が理解できる形にするというのは、組織としてのノウハウ化努力の出発点であることは間違いありません。

B7「手順標準化」

 B7「手順標準化」の設問では、「CADモデルを入手して、メッシュを生成し、さまざまな条件を加えて、材料データを入れ、解析モデルを完成させた後に、計算機にジョブを投入し、結果のポスト処理を行うといった一連のシミュレーション計算手順がどこまで標準化されているか」を聞いています。この領域の平均点は2を切る1.91で、全40項目のワースト4の数値となっています。

 ヒストグラムで顕著なのは、“レベル1:担当者ごとに異なる属人的な作業のままである”が多く、全体の3分の1を占めていることです。レベル2は、最低限の標準化のみですので、レベル1と2を合計した約7割において、手順の標準化は限定的か、なされていないということが分かります。

 実はこの項目ですが、これから登場する「活用手法」カテゴリーの「C6 自動化プロセス」やそれ以降のC7〜C9にも影響を及ぼします。なぜなら、手順が標準化されていなければ、手順を自動化しようがないからです。さらには、実験計画法や最適化探索にも進むことができません。標準化という視点の中だけであれば、属人化のままでも致し方ないと思われる向きもあるかもしれません。しかし、そうではなく、その先に高度な技術を活用するための基盤ができていないということに思い当れば、非常に由々しき事態であることがお分かりいただけるでしょう。「手順標準化」は昨今のトレンドになっている代理モデル作成〜機械学習のためのデータ生成を実施するために、最初に実施しなくてはならない基盤技術ですので、単に重要であるという以上のものだということをぜひご理解ください。

B8「標準化活動の継続」

 B8「標準化活動の継続」の設問は、「(代表的なCAEソフトの解析モデルや手順を想定して)モデル化や手順の標準化活動は継続できていますか?」であり、“継続”に焦点を当てています。

 ヒストグラムは手順標準化と似た傾向を示しており、レベル4、5が例外的でほとんどがレベル1〜3に偏っています。参考までに、レベル3は“組織として意義は共有されているものの、実施できる人材が不足している”にとどまる状況で、レベル5の“標準化の成果がシステムに組み込まれ、常に更新されている”までにはかなりのギャップがあることが分かります。

 今でもたまに聞く典型例として、「過去に素晴らしい設計ルールやノウハウを残し、それらをプログラムにも組み込んだ先輩がいた。そのプログラムは非常に重要で便利だったため10年以上も使われている。しかし、気が付けばそのプログラムの開発者は既に退職しており、引き継ぎもされていない……」という話があります。この場合、ドキュメントも残っていないためノウハウの根拠が分からず、改良もできない……という、にっちもさっちもいかない事態になって、初めて“ノウハウ移管(継続的活動)の重要性”に気が付くのです。

 これは標準化において、それを実施することと同等以上に、継続することがいかに重要であるかを示しています。考えてみれば、一度形式知化されたノウハウを持続的に学び、最新の状況に合わせて改善していくという仕事は、組織としてのノウハウ化向上活動そのものなので、意識的に実施すべきタスクのはずです。また、継続すること自体は難しくないはずなので、そこに正しく目を向け、優先度を振り向けるマネジメントがいないことが課題であるといえるでしょう。

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