Simulation Governanceの技術カテゴリー「モデルと計算」の診断結果シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜(5)(1/3 ページ)

連載「シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜」では、この10年本来の効果を発揮できないまま停滞し続けるCAE活用現場の本質的な改革を目指し、「Simulation Governance」のコンセプトや重要性について説く。連載第5回からは、各サブカテゴリーの項目のポイントやレベルの意味を解説しながら、詳細な診断データを眺めていく。まずは技術カテゴリーの「モデルと計算」に着目する。

» 2023年11月30日 08時00分 公開

 ダッソー・システムズの工藤啓治です。前回は「Simulation Governance(シミュレーションガバナンス)」を構成する9サブカテゴリー全体の傾向を眺めました。その結果、ノウハウ活用活用手法管理の仕組みというサブカテゴリーが、他のカテゴリーに比べて相対的にも絶対値としても低いということが見て取れました。これら3領域は、設計活用効果を向上させるための必須の手法であることは分かっていましたので、何としてもこれらに関わるテーマの評価点を底上げしなければならないのは明らかです。とはいえ、他のサブカテゴリーとの依存性や関連性もありますので、そういった視点で全体を見ていく必要があります。

 今回からは、相互の関連性や依存性という観点を忘れずに、各サブカテゴリーの項目のポイントやレベルの意味を解説しながら、詳細な診断データを眺めていきます。サブカテゴリーと項目の全体については、前回の内容を見ながら確認してください。

技術カテゴリーの「モデルと計算」に着目

 今回は、技術カテゴリーの「モデルと計算」サブカテゴリーに着目します。各項目の詳細データとヒストグラムを図1図2に記します。この領域は、シミュレーションを活用する上での基本の“キ”なので、先に述べた平均点数が低い、ノウハウ活用活用手法管理の仕組みの各領域にも当然大きく影響します。

[技術−モデルと計算]サブカテゴリーの診断結果平均、標準偏差、最大 図1 [技術−モデルと計算]サブカテゴリーの診断結果平均、標準偏差、最大[クリックで拡大]
[技術−モデルと計算]サブカテゴリーの診断結果ヒストグラム 図2 [技術−モデルと計算]サブカテゴリーの診断結果ヒストグラム[クリックで拡大]

B1「プログラム利用」

 B1「プログラム利用」の設問は「(代表的なソフトを想定して)CAEソフトをどの程度使いこなしていますか?」です。“レベル3:過去経緯もあり、そのまま使っている”〜“レベル5:ソフトの新しい機能も積極的に活用している”というレベル幅の中で平均値は3.63となっており、この値は40項目の中で2番目に高い数値になっています。

 ヒストグラムを見ても、1と2はほとんどなく、3、4、5側にシフトしています。シミュレーションを使いこなすためのベースの活動であるため、至極妥当といえるでしょう。ソフトウェアベンダー側もアップデートセミナーを定期的に開催していますし、需要と供給が活発に行われていることの証左となっています。

 この項目へのコメントを見てみると、「新機能に関する調査を定期的に実施」「目的に応じたアプローチでソフトの使い分けを意識」「新しい機能を活用するエンジニアが一定程度いる」「一部ソフトについては、開発元に新機能のリクエストを提示」という積極的な活用が示されています。ただその一方で、「与えられた道具として使っている」「従来実績のある範囲での解析評価が多い。新機能の活用は一部にとどまる」といった停滞的な状況も見られます。

B2「モデル化技術」

 B2「モデル化技術」では、CAEモデルを作成する技術の成熟度について質問しています。現物事象をシミュレーションするには、一にも二にもCAEモデルを正しく作れるかどうかに関わっていますし、全てのCAEエンジニアはモデル化の技術を磨くために日々努力しているといっても過言ではありません。

 図3には、モデルを作成する典型的なプロセスの中に、誤りや不正確さ、精度低下をもたらすリスクが隠れていることを示しています。CAE技術者は、トレーニングでこれらのリスクを学び、経験でそれらを回避するスキルを身に付けるわけですが、こういった作業は作成者の技量に依存することが分かるでしょう。たとえそれなりに正しい答えが出たとしても、10人作れば、10通りの答えが出てしまうバラツキが、CAEモデル化技術ではある程度避けられないのです。

正しいモデル化技術による正しい計算結果の導出プロセス 図3 正しいモデル化技術による正しい計算結果の導出プロセス[クリックで拡大]

 そこで、モデル化プロセスを標準化することで属人的なバラツキを極力減らし、さらに自動化プロセスを構築することで誰が作業しても間違いのないモデルを生成し、正しい結果を導けるようにする技術が求められます。CAEを活用する上での基盤技術であるのは当然のことです。

 回答結果のヒストグラムを見ていただくと、きれいな釣鐘形状になっていることが見て取れます。5点が少なく1レベルが少し多いので、点数が低い側にシフトしていますが、標準的なバラツキ状況を示しています。そういう意味では、モデル化技術は正しく着目され、適切な努力が払われているといえます。

 「モデル化技術」は、シミュレーションの計算品質に直結する問題なので、ブログ「デザインとシミュレーションを語る」では、このテーマを何回かに分けて深堀し、議論しています。興味のある方は、以下にリストアップしたブログ記事をご参照ください。モデル化技術は、計算品質を決定する大きな要因ですが、他にさまざまな要因があることも理解いただけるでしょう。

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