デジタルツインを実現するCAEの真価

Simulation Governanceの活用カテゴリー「活用手法」の診断結果シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜(8)(1/3 ページ)

連載「シミュレーションを制する極意 〜Simulation Governanceの集大成〜」では、この10年本来の効果を発揮できないまま停滞し続けるCAE活用現場の本質的な改革を目指し、「Simulation Governance」のコンセプトや重要性について説く。引き続き、各サブカテゴリーの項目のポイントやレベルの意味を解説しながら、詳細な診断データを眺めていく。連載第8回では、活用カテゴリーの「活用手法」に着目する。

» 2024年03月05日 09時00分 公開
[工藤啓治MONOist]

 シミュレーション・コンサルタントの工藤啓治です。前回、職場を定年退職し、個人コンサルタントとして活動し始めたということをお伝えしました。社会人でいる以上何がしかの所属もしくは肩書がありませんと、自己紹介するにも落ち着かないものです。ですので、勝手ながら「シミュレーション・コンサルタント」と名乗らせていただくことにしました。Web検索してみたところ、そういう名称はまだ世の中一般にはないようですので、むしろ一番に使ってしまった方がいいかもしれません。あらためてよろしくお願いいたします。

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本連載で頻出する「PIDO」について再確認

 さて、「活用カテゴリー」の解説もいよいよ佳境に入ってまいります。前回の「活用場面」では、「どんなに優れた道具を持っていても、それを効果的に活用する手段を持たない限り、道具の良さを発揮できません」と書きましたが、この言葉はむしろ今回の「活用手法」で述べるべきでした。前回の場合は「どんなに優れた道具を持っていても、それを効果的に活用する場面で使わない限り、道具の良さを発揮できません」と書くべきでした。修正しておきます。

 シミュレーション活用手法群や関連ソフトウェア(以下、ソフト)を一言で表す英語表記として、「PIDOProcess Integration and Design Optimization)」というワードがよく使われますので覚えておいてください。本連載でもこれからPIDOを何度も使います。前回も述べたように“優れたWhatと効果的なHowの組み合わせにより最高の成果が出る”という意味で、活用手法(PIDO)は、道具(シミュレーション)を切れ味鋭く研ぎ澄ませ、その効果を最大限に発揮させる方法になります。活用手法の全体を包含する図を1枚お見せします(図1)。

テンプレート化された解析ワークフロー 図1 テンプレート化された解析ワークフロー[クリックで拡大]

 こういう図を初めて見る方もおられるかもしれませんので、簡単に解説します。上の例は、ダッソー・システムズの「3DEXPERIENCEプラットフォーム」で用いられる「SPDM(Simulation Process and Data Management)」のProcess Composerという機能を使った、テンプレート化された解析ワークフローのイメージ例です。他にも同社のPIDO製品「Isight」などでも同様のことができます。

 通常、皆さんがCAEを実行するには、専用もしくは解析ソフトに付属するプリプロセッサを利用して、対話型でモデルを作成もしくは修正し、解析ソフトのコマンドを実行し、あるいはサーバに投入し、結果を待ちます。終了後は結果ファイルをダウンロードして、対話型でポスト処理を行い、図やグラフを抽出し、報告書を作成するというような段取りになるでしょう。そうした一連の処理の流れを「解析ワークフロー」と呼ぶことにすると、プリポスト作業のような対話型処理のところをバッチ型に書き換えてコマンド一つで実行できるような形にしてしまえば、解析ワークフローを図1のようなPIDOソフトを使って全自動処理にすることができます。

 解析ワークフローをグラフィカルに構築でき、それがそのままテンプレートになりますので、モデルやパラメータを変更するだけで誰でもボタン一つで一連の作業を自動で行うことができます。このワークフローの中には、解析モデルだけでなく、図中に書かれているように設計条件やモデル仕様とその設計探索範囲も含まれ、後処理まで自動化できることから、「標準化された設計情報が盛り込まれた実行可能な手順書」と称してもよいでしょう。通常、設計情報としては、CADモデルをはじめ、要求性能や設計準拠ルール、ドキュメントや計算シートに記載されている情報も含め、解析を実行するための関連情報が全てこのワークフローの中に記述されているだけでなく、データとプロセスが連結されて“実行可能”であるというポイントが非常に重要なのです。別の言葉で言い換えると、製品性能を予測/検証するための全ての設計情報が完璧に設定されて、ボタン一つで実行できる仕組みになっているということは、あらためて考えると何とも素晴らしいことではないでしょうか。

 話題が少しそれますが、性能設計(=シミュレーション)の自動化が徹底されている産業の筆頭に、航空機産業が挙げられます。中でも、ジェットエンジン開発の3大メーカーと呼ばれるGE(ゼネラル・エレクトリック)、P&W(プラット・アンド・ホイットニー)、Rolls-Royce(ロールス・ロイス)の各社においては、先ほど引用したPIDOソフトのIsightが1990年代から活用されており(GEはそもそもIsightの開発元でもあります)、ジェットエンジン設計のあらゆる領域で自動化がなされていることで有名です。公開論文もたくさん出ています。どこまで自動化が可能なのかについては、おそらく「大半の方々の想像を超えるレベル」と申し上げておいても誇張ではないでしょう。別の機会に、そうした公開例を示すことができればと思います。

 先ほどのワークフローの説明の中で、「標準化」という言葉が登場していることに注意してください。今回、自動化を前提に話をしていましたが、自動化の前に、モデルを標準化すること、手順を標準化することが実は必要なのです。標準化が十分になされていないと、極端な場合、1回しか使われない自動化ワークフローを作成してしまうことにもなりかねません。1回は極端にしても、使う頻度が少なければ、自動化プロセスを組むための工数ばかりがかかり、自動化の恩恵を受けにくくなります。本連載の第6回「Simulation Governanceの技術カテゴリー『ノウハウ活用』の診断結果」に登場するB6モデル標準化と共有化」とB7手順標準化」が重要なのはそのためです。標準化のレベルを上げることと標準化の適用範囲が広いことは、自動化の効果を上げるために共に重要なことです。

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