2023年は大手製造業を中心に生成AIの大規模導入が進んだ年だった。確かに、生成AIは製造業にも革命的な変化をもたらすテクノロジーだと感じられるが、導入そのものはゴールではない。2024年は定着化に向けた施策が進むと思われるが、その辺りを少し考えてみたい。
2023年、製造業では生成AI(人工知能)が大きな注目を集めた。大手製造業を中心に、マイクロソフトの「Azure OpenAI Service」やAWSの「Amazon Bedrock」などのサービスを介して、セキュリティ対策を講じた上で社内業務への生成AI導入を進める動きも加速している。読者の中には試しに業務で使ってみて、テクノロジーが持つ可能性に驚いた人も大勢いるに違いない。
確かに、生成AIは製造業にも革命的な変化をもたらすテクノロジーだと感じられる。しかし、単に大規模言語モデル(LLM)や生成AI関連サービスを導入しただけでは、変化の恩恵を受けることは難しいかもしれない。生成AIを用いてどのような新しい価値を実現したいかを組織全体でしっかり見定め、これまでよりも深く業務に組み込んでいくためのトライアルを繰り返していく必要がある。
ビジネス領域でLLMやChatGPTをはじめとする生成AI関連サービスに注目が集まり始めたのは、つい最近のことだ。製造業における生成AI活用のベストプラクティスが、業界全体で十分に蓄積されているとは言い難い。
2024年はそうした知見の報告が各社から出てくるだろう。同時に、生成AIが本当に業務で“役立つ”のか、厳しい視線が注がれる年になると思われる。最初は物珍しさから触っていた社内ユーザーも、「思っていたほど役に立たない」と感じたら利用を敬遠するようになってしまうだろう。
では、生成AIを業務に取り入れる上で何が大事になるのか。本稿では少し、その点を考えてみたい。
まずは、製造業で生成AIサービスの活用がどれほど進んだかを見てみよう。2023年12月にエクサウィザーズが行った調査では、業務で生成AIを「時々使用している」「日常的に使用している」と回答した製造業の割合は69.2%だった。7割弱の製造業は、少なくとも何回か利用したと答えていることになる。同年9月時点の調査と比べると10%超上昇しており、利用率が高まっている様子が伺える。
実際、2023年には大手製造業を中心に、生成AIサービスの全社的な導入に踏み切る企業が多く見受けられた。企業が公表したものの内、2023年にChatGPTの大規模導入を行った事例を幾つか下記の表にまとめた。
社名 | 導入発表時期 | 導入規模(発表時またはMONOist取材時点) |
---|---|---|
パナソニックホールディングス | 2023年4月(全グループ導入発表) | 約9万人のグループ国内全社員が対象 |
日清食品ホールディングス | 2023年4月 | 国内事業会社の社員約3600人 |
日立製作所 | 2023年5月 | 2万人弱と回答(2023年9月時点)。段階的に拡大予定 |
大日本印刷 | 2023年5月 | グループ社員約3万人 |
ライオン | 2023年5月 | 国内従業員の約5000人 |
AGC | 2023年6月 | 導入規模不明 |
フジテック | 2023年6月 | 国内全社員の約3000人 |
中外製薬 | 2023年7月 | 全社展開 |
三菱電機 | 2023年8月 | 国内グループ全従業員の約12万人 |
小林製薬 | 2023年8月 | 国内全社員約3200人 |
アサヒグループジャパン | 2023年9月(GPT-4導入時) | グループ全部門約300人が試験的に利用 |
住友化学 | 2023年10月 | 全従業員約6500人 |
パナソニック ホールディングスとそのグループ企業であるパナソニック コネクトが、業界内でいち早く全社導入を検討、実行したことは大きな注目を集めた。これを皮切りに多くの製造業が大規模導入に踏み切ったが、全社展開ではなく一部部門でのみ試験的に取り入れている製造業も一定数いるものと思われる。
ChatGPTの業務適用例にはさまざまなものがある。一例を挙げれば、ソースコードの作成支援や技術的な質問、特許情報の要約、商品企画やマーケティングの業務支援などが挙げられる。英文翻訳やドキュメントのドラフト作成にも使用されている。
製造業に限った話ではないが、国内企業は生成AIに対して比較的高い期待感を抱いているようだ。IDC Japanの調査では、生成AIに投資する計画がある、あるいはすでにしているとした国内企業の割合が、世界全体の結果を上回った。生成AI活用を検討し始めたとする企業の割合も、若干ではあるが国内企業の方が多い。同社はサマリーの中で「日本が優勢する状況は比較的珍しい」と述べているが、デジタルツール導入への意識の遅れがしばしば課題視される国内企業としては、確かにあまり見ない結果になったといえるかもしれない。
電子情報技術産業協会(JEITA)は国内製造分野での生成AI市場の需要額が2025年に約677億ドル(約9824億円)、2030年に約2034億ドル(約2兆9517億円)に達すると予想する。予想通りであれば、新しい巨大市場が生まれることになる。今後は生成AI関連サービスがR&Dや設計、商品企画やフィールドサービスなど具体的なプロセスへと深く組み込まれていくことになるだろう。
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