ヤマ発は海でもCASEに注力、パワートレインはマルチパスウェイで船も「CASE」(3/3 ページ)

» 2023年12月25日 06時00分 公開
[長浜和也MONOist]
前のページへ 1|2|3       

マリンの電動化とさまざまな環境技術

 Electric領域では、ヤマハ発動機が開発を進めている電動推進ユニットと操舵システムの統合プラットフォーム「HERMO」を紹介した。HERMOは共に微細な操船を可能にする電動制御システムとリムドライブ機構を組み合わせることで直感的な操船を実現する。

電動制御システムとリムドライブ機構を組み合わせで直感的な操船を可能にする[クリックで拡大] 出所:ヤマハ発動機

 もう1つの柱であるカーボンニュートラル対応では、電動化だけでは実現は困難なマリン特有の問題を考慮して、水素エンジンや燃料電池、合成燃料など複数のアプローチでの解決を図るとしている。「バッテリーによる電動化だけでは全てを解決できないと考えている。出力がある程度のところまでは電動推進器を想定しているが、それ以上の出力が求められる領域ではマリン特有の課題があり、水素エンジンや燃料電池、合成燃料などによるアプローチが最適だとみている」(井端氏)

 マリン特有の問題としては、水上を走るボートは常に大きな水の抵抗を受けており、陸上を走るクルマの約10倍のエネルギーが必要となること、現在のバッテリー技術ではガソリンなどと比べてエネルギー密度が低く、結果的に1度の充電で航行可能な距離が短くなることがある。そのため、「現在のバッテリーによる電動化技術だけではカーボンニュートラルを達成することは困難」(井端氏)で、以前から取り組んでいる4ストローク化による燃費の向上に加えて、電動化やカーボンニュートラル燃料活用、海上走行時の効率向上など、さまざまな取り組みが重要という。

電動化だけでは実現は困難なマリン特有の問題を複数のアプローチで解決する[クリックで拡大] 出所:ヤマハ発動機

 カーボンニュートラル燃料の1つ、バイオ燃料は既に二輪車で対応製品が市販されている。ヤマハ発動機は2023年のマイアミボートショーでバイオ燃料に対応した船外機のデモを実施し、現在は実用に向けた準備を進めている。また、水素エンジンについても、現在は海外拠点と連携した開発を進めており、こちらは2024年開催のマイアミボートショーで展示を予定している。

大きな抵抗を受けるボートの燃料には高いエネルギー密度が必須となる[クリックで拡大] 出所:ヤマハ発動機
2024年開催のマイアミボートショーで展示を予定している水素エンジン船外機[クリックで拡大] 出所:ヤマハ発動機

水中抵抗の低減、バイオマス樹脂などの活用

 海上走行時の効率向上に対する取り組みでは、水中抵抗を減らす水中翼船の研究を進めている他、ボートや船外機の水の流れを解析し、それらを踏まえたより効率的なプロペラの開発などにも取り組んでいるという。

水中翼船型や船外機形状改善による効率向上も進めている[クリックで拡大] 出所:ヤマハ発動機

 加えて、艤装(ぎそう)品素材としてバイオマス樹脂の導入も進めており、2022年建造モデルからフィッシングボートの組み込みいけすのフタなどで採用が始まっている。また、植物由来のセルロースナノファイバーの導入も検討している。軽量化とリサイクル性に優れているため水上バイクの2024年モデルからエンジンヘッドカバーでの採用を計画している。

バイオマス樹脂は既に船体パーツで採用。セルロースナノファイバーの導入も2024年から導入予定だ[クリックで拡大] 出所:ヤマハ発動機

 なお、CO2の排出量削減のために、貨物船などの本船では近年帆走併用に取り組む船が登場してきている。ヤマハ発動機は日本におけるヨット生産販売で最大手だった時期もあったが、撤退して久しい。近年のカーボンニュートラル対応を受けてヨット事業の再開はあるのかを質問したところ、元ヨットマンの井端氏は「ヨット事業の再開については何も言えないが、水中翼船型など効率化向上の研究においてヨットレースの研究は随時関心を持って注目している」と答えている。

→その他の『船も「CASE」』関連記事はこちら

前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.