ひとが感じる快適さをモデリングする 〜ひとを熱的視点で捉える〜1Dモデリングの勘所(26)(1/4 ページ)

「1Dモデリング」に関する連載。連載第26回は、“ひとが感じる快適さ”について考えるとともに、その一つの具体例として“ひとを熱的視点で捉える”モデリングについて説明し、定式化して、解析および検証を行う。

» 2023年12月14日 09時00分 公開

 ひと(※注1)が感じる“快適性”に関しては、連載第19回「乗り心地を考慮したエレベーターのモデリング」の中で振動との関係に触れ、同じ振動入力であってもひとによって感じ方が異なることを示した。

注1:「人」「ヒト」「ひと」の表記について:本稿では「人:一般的」「ヒト:生物学的」「ひと:人間的(ものとの対比)」と使い分けて表記しています。

 一方、日常的に快適性というと、温度を中心とした空調を指す場合が多く、これを実現する空調機器、すなわちエアコンのモデリングに関して、連載第20回第21回で取り上げた。ただし、このときはエアコンのことを温度を調整する機械としか捉えておらず、必ずしも快適性を定義、数値化した議論にはなっていなかった。

 そこで、今回は“ひとが感じる快適さ”について考えるとともに、その一つの具体例として“ひとを熱的視点で捉える”モデリングについて説明し、定式化して、解析および検証を行う。

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ひとが感じる快適さのメカニズム

 ひとが感じる快適さのメカニズムは複雑である。一方、本連載で目的としているモデリングは、複雑な事象をできるだけシンプルに捉えて解析可能とすることにある。そこで、この複雑なひとが感じる快適さを高所から考えてみる。

 図1に、ひとが感じる快適さの要因を示す。大きく「物理的要因」と「心理的要因」に分類できるのではないだろうか。

ひとが感じる快適さの要因 図1 ひとが感じる快適さの要因[クリックで拡大]

 心理的要因はいわゆる喜怒哀楽で、これらがひとに大きく影響していることは経験的には知っているが、これをシンプルに捉えて解析可能とすることは現状の科学をもってしても困難である。

 物理的要因に関しては、交通機器の乗り心地に起因する振動や、家電機器から発生する音が関係することは既知であり、これらに関する研究、規格も存在する。ただし、音振動は常にこれらの状況下にある訳ではなく、そのような状況を避けることにより回避できる。一方、熱的要因は常にわれわれの周りを取り巻く環境であり、どこにいようと、昼夜関係なく作用する。そこで今回は、ひとが感じる快適さの要因のうち“熱的要因”に着目して検討する。

熱の流入流出のバランスと快適性

 ひとが感じる快適さの熱的視点でのメカニズムに関しては、建築業界、空調機器業界で長年にわたる研究が行われており、かつ規格化されている。そこでこれらの成果を紹介する形で話を進める。

 図2に示す通り、室内にひとが存在し、ひと自体がMなる熱を内在していると考える。このとき、ひとから外に向かって、蒸発による熱E、対流による熱C、ふく射による熱Rが放出される。また、ひとが外部に対して仕事Wを行っていると考える。さらに、ひとと床との間に伝導による熱放出Kも考えられるが、これは小さいものとしてここでは省略する。なお、図中では矢印方向を+とする。例えば、ふく射で太陽光を浴びている場合は太陽光の温度が高いので、ふく射による熱は図とは逆方向に、ひとに向かって入射する。

ひとが感じる快適さの熱的視点でのメカニズム 図2 ひとが感じる快適さの熱的視点でのメカニズム[クリックで拡大]

 図2の状態でひとの体内に蓄積される熱Sは下式で定義できる。

S=M−W−E−(R+C)

 ここで、S=0のとき、ひとと外部の間に熱の出入りはなく、ひとが快適と感じていると考える。一方、S>0の場合には、体内に熱が蓄積されている状態なので暑く感じると考える。また、S<0のときには、体内から熱が外に逃げていく状態なので寒いと感じると考える。

 快適性の評価方法は種々提案されているが、ここでは「ASHRAE Standard 55-2010」にのっとって考えることにする。快適性には、図3に示すように、空気温度(Air Temperature)、ふく射温度(Radiant Temperature)、湿度(Humidity)、風速(Air Speed)、代謝量(Metabolic Rate)、服装(Clothing Insulation)が影響するといわれている。

 つまり、これらの関係を求めて、定式化、計算可能とすることにより、快適性を数値として評価できると考える。図2との対比で考えると、蒸発Eには、湿度、空気温度、代謝量が、ふく射Rには、空気温度、服装、代謝量が、対流Cには、風速、空気温度、服装、代謝量が関係する。

快適性に関係する要因 図3 快適性に関係する要因[クリックで拡大]

参考文献:


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