「シルクスクリーン」は、インクを絹や網目の細かいメッシュスクリーンを通して部品に押し付けることで、柄を部品に印刷する技術です。工業製品だけでなく、服飾やアート作品などの場でも頻繁に使用されます。
適応される工業製品は多種多様であり、ロゴや操作パネルなどのボタンアイコン部分などで使われることが多いです。例えば、自動車のエアコン操作パネル、TVリモコンのスイッチ、キーボード、これらの表記にはシルクスクリーンが使用されます。
印刷工程の前に、任意の図柄の版下を使用する色の数だけ制作します。基本的に1つの版下で印刷できる色は1色です。印刷工程では、まず版を対象の部品にセットし、その上からインクをスクイジー(ゴム製のヘラ)で押し付けます。こうすることで、版の網目から出てきた図柄形状のインクが部品に定着します。インクの種類によっては、ラメや特殊機能も付加できます。
スクリーンの網目の大きさなどが印刷品質に影響を与えるため、微細な表現に制約があるなど、留意が必要です。また、基本的には平な面に適応される技術であり、複雑な形状に対しての印刷には不向きです。
シルクスクリーンのコストは、デザインの複雑さや色数などによって変動します。イニシャルコストは金型などと比べると高くないため、少量生産、大量生産問わず、活用しやすい技術とされています。
「パッド印刷(タンポ印刷)」は、柔軟性を持つシリコーン製パッドを用いて、インクを被印刷物に転写する印刷技術です。オフセット印刷の一種とされていて、最大の特徴は曲面に印刷することが可能な点です。従って、シルクスクリーンが適応できない、曲面や凹凸のある部品への文字や図案表現に最適な技術とされています。このパッド印刷は、お皿やマグカップなどの陶器への加飾に使用されることが多いですが、自動車内装部品、医療器具、その他電子機器のボタンや目盛りなど、多種多様な製品に使用されています。
印刷プロセスでは、まずシルクスクリーンと同じ要領で一度台座に柄形状のインクを塗布します。そして、台座上のインクをシリコーン製のパッドで拾い上げ、それを部品に押し当てることで任意の柄を部品に転写します。
パッド印刷を使用する際には、部品の形状や柄に合わせてパッドの硬さやインクを選定する必要があるため、複雑な形状または柄の再現をする際には事前に加工業者に相談が必要です。
パッド印刷は一般的に版やパッドの製作コストが発生しますが、印刷可能な部材の形状や素材が広範であるため、トータルの部品コストは比較的安価に抑えることが可能であり、非常に使用しやすい加飾技術です。
加飾技術の選定における、デザイナーと設計者のコミュニケーションは品質の高い製品を作り出すためには重要です。コミュニケーションのポイントとしては以下のような項目が挙げられます。
特に、設計者からデザイナーに対して技術制約を明確に伝達することは重要です。例えば、「水転写のような技術が必要であれば、バリエーションは増やせるが部品コストは下げにくい」「シルクスクリーンやパッド印刷は色数や形状の制約がある」などは、設計者からデザイナーに伝えるべき技術制約です。
設計者とデザイナーが互いに加工技術とその制約を理解し、デザインの提案や設計の改修に努めることは、素早く品質の高い製品開発を実現するための最良の方法であり、工業製品開発現場のあるべき健全な姿といえます。
前回の[前編]と今回の[後編]を通して、デザイナーの要求をかなえる10の加工技術を紹介しました。これらの技術は、それぞれ異なる特性や利点を持ち、デザインの要求に応じて適切に選択することが求められます。
本稿では、比較的多用される技術を中心に解説しましたが、他にも多くの加工技術/加飾技術があります。また、デザインを再現する場だけでなく、加工技術の知識は新しい製品アイデアを考える場でもヒントになり得ます。設計者とデザイナーがお互いの知識を持ち寄って、革新的な表現や製品が生まれることも珍しくありません。興味のある方は、その他の技術についても調べてみることをお勧めします。
そして、学ぶより試すことの方が得られるものが多いということは否定できません。ぜひ機会があれば、さまざまな加工技術を実務の場で活用してみてください。 (次回へ続く)
菅野 秀(かんの しゅう)
株式会社346 創業者/共同代表
株式会社リコー、WHILL株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、株式会社346を創業。これまで、電動車椅子をはじめとする医療機器、福祉用具、日用品などの製品開発および、製造/SCM領域のコンサルティング業務に従事。受賞歴:2020年/2015年度 グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、2021年/2017年度 グッドデザイン賞、2022年 全国発明表彰 日本経済団体連合会会長賞、2018 Red dot Award best of best、他
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