京都大学は、真核微生物を宿主とする海洋巨大ウイルスが保持する遺伝子の種類を解析し、巨大ウイルスが進化の過程で寒冷な海域に進出した際、遺伝子組成を変化させることで適応してきた可能性を明らかにした。
京都大学は2023年10月13日、真核微生物を宿主とする海洋巨大ウイルスが、進化の過程で寒冷な海域に進出した際、遺伝子組成を変化させることで適応してきた可能性を明らかにしたと発表した。
巨大ウイルスは、ゲノムに数百〜数千個の遺伝子を保持する。今回の研究では、大規模海洋メタゲノムデータを用いて、巨大ウイルスと真核微生物のネットワークを推定した。その結果、ネットワークの全体構造が温度と強く相関しており、寒冷域と温暖域では生息するウイルスと宿主の群衆組成が異なることが示された。
次に、寒冷域に頻出するウイルスと温暖域に頻出するウイルスの分布を進化系統樹で調べたところ、巨大ウイルスの複数の系統で、寒冷域型ウイルスと温暖域型ウイルスが混在していた。理論的な計算によると、温暖域から寒冷域への適応が118回、寒冷域から温暖域への適応が95回発生したと推定された。
また、遺伝子の種類の変化を見るため、京都大学のKEGGデータベースを活用してウイルス遺伝子の機能を予測した。その結果、計1591種類の遺伝子機能のうち19.7%となる314種類の機能が、寒冷域かつ高緯度域に分布していた。
こうした寒冷域特有の遺伝子は、寒冷型ウイルスのゲノムにコードされている遺伝子の16%を占めていた。これらの遺伝子は、硝酸塩を細胞に取り込む輸送タンパク質遺伝子や、細胞膜構造、ウイルス粒子表面構造修飾に関わる遺伝子が含まれていた。北極圏では硝酸塩が制限要因となり得ること、低温に適応した細菌の細胞膜は不飽和脂肪酸が多いことが知られており、これらの遺伝子がウイルスの低温適応と関係している可能性が示唆される。
同様の解析を真核微生物でも実施したところ、ゲノムにコードされる遺伝子のうち、寒冷域特有の遺伝子は4.4%で、前述したウイルスの19.7%よりも少なかった。このことから、ウイルスゲノムの遺伝子組成は、真核微生物に比べて温度変化に敏感に応答する可能性が考えらえる。
今回の成果から、仮説段階ではあるものの、巨大ウイルスが遺伝子プールの変化を通して寒冷域の環境に適応し、その適応メカニズムが他の生物と異なる可能性が示唆された。
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