インダストリー5.0に向けた日本と欧州の産業トレンド、人間中心のデジタル化FAニュース

「インダストリー5.0」に向けた日本および欧州の政策動向や産業トレンドに関するラウンドテーブルが東京都内で開かれ、製造業を巡る課題や今後求められる取り組みなどを識者が語った。

» 2023年11月02日 08時00分 公開
[長沢正博MONOist]

 フランスのGL events Venuesは2023年10月26日、「Industry 5.0(インダストリー5.0)」に向けた日本および欧州の政策動向や産業トレンドに関するラウンドテーブルを東京都内で開き、製造業を巡る課題や今後求められる取り組みなどを識者が語った。

日本のスマートファクトリーで生きるデジタル

 デロイトトーマツコンサルティング 執行役員の芳賀圭吾氏は日本のスマートマニュファクチャリングについて講演した。

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員の芳賀圭吾氏 デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員の芳賀圭吾氏[クリックで拡大]

 日本の製造業を巡る環境は非常に複雑化している。少子高齢化を背景に人材不足が大きな課題となる一方、熟練者が次々と退職。さらに、これまでの効率重視だけでなく、カーボンニュートラルをはじめとする環境配慮や世界経済の構造変化、新興国のキャッチアップなどへの対応も求められている。

 芳賀氏は「従来、スマートファクトリーは製造現場の自動化や効率化などに対する取り組みだったが、これからは日本の製造業がもともと持っている組織の力を生かした改善など、組織の知恵を蓄えて伸ばしてくような取り組みにデジタルの力を当てていくべきだ」と語る。

 デロイト トーマツが考えるスマートファクトリーでは、計画から実行までの自動化軸と提案からサービスまでのサプライチェーン連携軸の2つ軸に加え、現場から得られるデータを意思決定やイノベーションに結び付ける組織活動強化の軸が存在する。そして、従来のルーティン業務の効率化、市場ニーズに基づくバリューチェーン連携などをスマートファクトリー1.0とし、デジタル技術を活用して非ルーティン業務などでの気付き、意思決定を支援し、組織活動を強化するのがスマートファクトリー2.0となる。

スマートファクトリー2.0で目指す姿 スマートファクトリー2.0で目指す姿[クリックで拡大]出所:デロイトトーマツコンサルティング

 芳賀氏は「日々の仕事は決まったことをやるよりも、決まったこと以外の仕事に時間をかけている。そこで問題解決することで、新しい知恵やアイデアが生まれてくる。製造業も同じだ。市場の変化や現場のトラブルが起こった時に、知恵を出し合い、問題を解決していく中でイノベーションが創出される。この点に対して、これまでデジタル化の取り組みは十分になされていなかった」と指摘する。

 その時に、現場で起きた不具合などの事象もしくは現場の状態のデータだけを捉えるのではなく、それらをデジタルを駆使して組み合わせて、人が分かる情報にして組織に供給していくことが重要となる。「人が見えなかった気付きを組織で共有して新しい改善につなげる。このような取り組みを日本の製造業は進めるべきだ」(芳賀氏)。

 例えば、なぜを5回繰り返すなぜなぜ分析に、AI(人工知能)を取り入れて人だけでは気付かなった新しい因果関係を見つけるなどだ。「デジタルに全て置き換えるのではなく、人の活動の中でデジタルをどう使っていくかを製造業では考えていくべき」(同氏)。

組織活動を進化させるAI活用のイメージ 組織活動を進化させるAI活用のイメージ[クリックで拡大]出所:デロイトトーマツコンサルティング

欧州がインダストリー5.0で目指すものとは

 SINEORA 代表取締役でフランス在住の今井公子氏がインダストリー5.0についてオンラインで説明した。

フランスから参加したSINEORA 代表取締役の今井公子氏 フランスから参加したSINEORA 代表取締役の今井公子氏[クリックで拡大]

 2011年にドイツで行われたハノーバーメッセでIoT(モノのインターネット)などをキーテクノロジーとした産業構造変革の姿としてインダストリー4.0が提唱された。それから10年を経て、2021年に欧州委員会が発表したのがインダストリー5.0だ。

 今井氏はインダストリー4.0によって効率化が追求される一方で企業の社会的影響力がなおざりにされたり、自動化が進む一方で従業員の不安は高まったりしたと指摘。「インダストリー4.0に疑問が持たれ、アップデートする必然性が出てきた」(今井氏)。

 インダストリー5.0には「人間中心のデザイン」「レジリエンス」「持続可能性」という3つの柱が設けられている。

インダストリー5.0で掲げる3つの柱 インダストリー5.0で掲げる3つの柱[クリックで拡大]出所:SINEORA

 「企業は人と機械が共に働く環境を作りだし、従業員をコストではなくアセットとして見ていかなければならない。グローバルとローカルの両方を見ながら、大きな環境の変化にも対応できるネットワークの構築も求められる。また、企業は環境への配慮だけでなく、持続可能でよりよい世界をもたらすイノベーションを生み出さなければならない。利益の追求だけではなく、どうやって社会貢献をしていくかを根本として、その上でデジタルの活用を考えなければならない」(今井氏)

インダストリー5.0と4.0の対比 インダストリー5.0と4.0の対比[クリックで拡大]出所:SINEORA

 なお、GL events Venuesではフランスで毎年3月に開かれる欧州総合産業展示会「グローバルインダストリー」の日本版として、2024年3月13〜15日にAichi Sky Expo(愛知県国際展示場)で「SMART MANUFACTURING SUMMIT BY GLOBAL INDUSTRIE」を初めて開催する。

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