インダストリー4.0に象徴されるデジタル技術を基盤としたデータによる変革は、製造業に大きな変化をもたらしつつある。本連載では、これらを土台とした「インダストリー5.0」の世界でもたらされる製造業の構造変化と取りうる戦略について解説する。第2回は、グローバルで進むインダストリー5.0(第5次産業革命)のインパクトについて解説する。
本連載では、「インダストリー5.0と製造業プラットフォーム戦略」をテーマに連載として、拙著『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)や『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社)、『メタ産業革命〜メタバース×デジタルツインがビジネスを変える〜』(日経BP/2022年10月20日出版)の内容なども踏まえ、これからの製造業が捉えるべき構造変化と、取りうる戦略について以下のような流れで解説している。
前回は、前提としてインダストリー4.0(第4次産業革命)とされた「デジタル化に伴う製造業の構造変化」の内容について紹介した。第2回となる今回はこれらを前提として進む次の動きである「インダストリー5.0(第5次産業革命)」の影響について解説する。
インダストリー4.0(I4.0)が2011年に発表されてから10年以上が経過している。I4.0のコンセプトは、中国製造2025や、日本におけるConnected Industries政策をはじめ、世界中の産業コンセプトに影響を与え、大きな変化をもたらしてきた。そして、この10年の中でもコロナ禍をはじめ世界の環境は大きく変化し、欧州においてはI4.0の次のコンセプト(Next I4.0)の議論が進んできている。
本家のドイツにおいては2019年のハノーバーメッセにおいて発表された「Vision2030」が、I4.0を引き継ぐものだと見られている。Vision2030では「主権/自律性」「相互運用性」「持続可能性」が重要なコンセプトとして提唱されている。さらに、このVision2030に沿う形で2020年11月には「持続可能な製造」に関するレポートも発表され、具体的なシナリオが提示されている。
また欧州委員会においては、「人間中心」「サステナブル」「レジリエント」をキーコンセプトとしたIndustry5.0が2021年1月に発表されている。I4.0はデジタル化により産業の効率化やビジネスモデルの変化を目指したものである。しかし、人間の視点や社会および環境の観点でそれが十分ではなく、その点を考慮したIndustry5.0が提唱された。
これらNext I4.0の動きは環境意識の高い欧州での個別事象ではなくグローバルに広がっている。米国ではバイデン政権が環境配慮型の政策に舵を切っている他、2021年4月にはドイツのI4.0推進機関と、米国のスマート製造に向けたコンソーシアムが環境および気候変動に対応した持続可能な製造領域での連携を発表している。持続可能性をもとにしたNext I4.0においてもドイツは急速にグローバルでの連携とエコシステム形成を急速に図っていることが分かる。
加えて、中国においては、国家スマート製造政策ビジョンである「中国製造2025」のレポートでグリーン製造業イニシアチブが発表されている。さらに、サステナビリティ領域において世界をリードしていく姿勢が表明されている。I4.0においては各国が新興国への影響力確保をはじめグローバルでの主導権争いが展開されたが、Next I4.0においても急速なグローバルでの拡大や、主導権争いが既に起こっている。
日本は2016年に「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」を意味する「Society 5.0」を打ち出している。欧州委員会のIndustry5.0のレポートをみると、Society5.0は関連する先行コンセプトとして触れられており、2016年当時から人間中心や社会との持続可能性を提唱している点は評価に値する。しかし、グローバルでNext I4.0の展開スピードが速まっていくことが想定される中、国内に閉じた動きではなく、産官学連携を通じたSociety 5.0のグローバルでの普及や仲間作りの加速が求められている。
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