これら次世代インダストリー4.0、つまり第5次産業革命においてもCPS(サイバーフィジカルシステム)の存在が重要となる。例えば、先述のインダストリー4.0推進機関が提唱しているサステナブル製造レポートにおいては、持続可能な製造に向けて3つのPath(方向性)が示されており、図5のように各方向性の11の具体的ユースケースが提唱されている。
過去からI4.0は実現するべきシナリオをアプリケーションシナリオとして定義し、産学官で連携した具体的ユースケース作りを通じてコンセプトで終わらせることなく社会実装を行ってきた。同様に、サステナブル製造においても具体的なシナリオの定義とユースケースを蓄積し急速に社会実装を行ってきた。次世代I4.0でのSustainable Productionにおいても具体的なシナリオの定義とユースケースを蓄積し急速に社会実装を行っていくことが想定される。
製造業においてサステナビリティを確保していくために求められる活動としては、製品ライフサイクルや、GHG(温室効果ガス)プロトコルのScope3と呼ばれるサプライチェーンも含めたCO2排出量のモニタリングが重要となる。
その観点でも先述のサステナブル製造シナリオの中でも「サステナブルツインズ」と呼ばれるシナリオが定義されている。これは、原材料レベルからのCO2排出量など、サステナビリティを実現するための要素をデジタル基盤上で統合し、デジタルツインを構築するというものだ。
今後企業の意思決定を支えるデジタルツインとしては、環境指標なども含めた複合的なシミュレーションが必須となる。例えば、ドイツのシーメンス(Siemens)は製品のCO2排出量(カーボンフットプリント)をサプライヤー分も含めて集約し、算出するツール「SiGreen」を提供している。多くの製造業におけるCO2排出量は、自社が直接排出する量は限られており、90%以上がScope3と呼ばれるサプライチェーンの中で排出されるものである。そのため、製品ライフサイクルを通じてCO2排出量を削減していくには、企業を超えた管理が重要となる。これらを認証機関による認定のもと、製品1単位あたりで排出量モニタリングを行う。
シーメンスでは、サプライチェーンを横断したCO2排出量モニタリングデータの共有促進のため、産学ネットワークの「Estainium協会」を、14の企業/団体と共に設立しており、企業や業界の壁を越えた枠組み作りに積極的に取り組んでいる。
また、設計時にどのような素材を活用するかも重要な要素となる。例えば、自動車をはじめ多くの業界において重要となっているリサイクルプラスチックの活用検討でもデジタルツインが効果を発揮する。リサイクルプラスチックを活用する場合、製品ライフサイクルにおけるCO2排出量など環境影響としては良い効果をもたらすが、その分コストや品質とのトレードオフが発生する。サーキュラーエコノミー(循環経済)の実現に向けたリサイクルや再生品の活用が重要となる中で、いかにこのトレードオフの中でビジネス面での影響を最適化して意思決定するかが問われてくる。
その判断を行うため、後述するフランスのダッソー・システムズ(Dassult Systemes)では、製品のライフサイクルを「素材」「設計」「製造」「使用から廃棄」までをライフサイクルと捉えて、これらの影響をモデル化してシミュレーションすることにより意思決定を支援するデジタルツインを提供している。
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