各社の役割に関して、日立パワーソリューションズは、大容量ハイブリッド蓄電池システムの設計、系統情報制御システム(EMS)、パワーコンディショナー(PCS)の納入/管理を担った。同社はEMSとEWE Vertriebの仮想発電所(VPP)コントロールシステムを連携させ、実際の電力取引に合わせた、大容量ハイブリッド蓄電池システムによる調整力の供給を実現した。
納入したEMSは、VPPコントロールシステムと連携することで、調整力と卸電力の入札準備に対応し、調整力出力目標値の受信と結果報告に応じる。さらに、大容量ハイブリッド蓄電池システムの1次調整力出力の決定、各蓄電池の残量管理、リチウムイオン電池とNaS電池への出力配分に対応する。
実証期間中、同社の担当者は現地に滞在し、大容量ハイブリッド蓄電池システムの稼働データ分析やEMSの制御と運用の改善を行った。日本ガイシはNaS電池を、日立化成はリチウムイオン電池の納入/管理を担当した。
上記のEMS、PCS、NaS電池、リチウムイオン電池などから成る大容量ハイブリッド蓄電池システムには、連携する風力発電所やバイオマス発電所で発電した電力が、ファーレル変電所を介して蓄積された。その電力を、需給調整市場あるいは電力市場に送るために、EWE Vertriebの仮想発電所(VPP)コントロールシステムとEWE Tradingの電力取引システムが使われた。加えて、その電力を送電事業者に送るために、EWE VertriebのVPPコントロールシステムとEWE Netzのグリッドコントロールセンターが活用された。
太陽光や風力を利用する発電施設では気象や風力の違いにより創出される電力が変わる。そのため、これらの再生可能エネルギーを需要家に安定供給する際には、需要に対して、再生可能エネルギーが多く創出された際に蓄電し、同エネルギーが少なく創出された時に足りない電力を供給するバランサーが求められる。そのバランサーとして市場が確立しているのが蓄電池市場だ。
蓄電池には即応性に優れたリチウムイオン電池と長期運用に長けたNaS電池がある。こういった利点を踏まえて、NEDOは、両電池の長所を組み合わせた大容量ハイブリッド蓄電池システムを開発した。
大容量ハイブリッド蓄電池システムの実証事業が行われたドイツの需給調整市場について、PCRの落札価格は、2009〜2015年は横ばいだったが、2016〜2020年4月は下落し、2020年4月以降は右肩上がりを続けている。NEDOが実証事業を行った2017〜2020年2月はPCRの落札価格が下落していたこともあり、当時は有識者から大容量ハイブリッド蓄電池システムの事業化は難しいと評価された。「2020年4月以降にPCRの落札が上昇したことを受けて、2023年に同事業の再評価を行った。その結果、近年のエネルギー価格高騰を考慮すると、蓄電池を用いた需給調整用システムによりPCR市場で採算が得られる可能性があることが分かった」と廣瀬氏は強調する。
また、ドイツの再エネ比率は右肩上がりを続けており、2023年には電力全体の半分は再エネ由来の電力が占めている。このように再エネの利用率が高いドイツは、TSOの4社が広域的連携体制のGCC(Grid Control Cooperation)を2007年12月に構築し、需給調整力の公募調達を開始した。以降、近隣各国と国際連携しIGCC(International GCC)を立ち上げ、需給調整市場に拡大させた。
なお、ドイツのPCR市場ルールは過去に3回変更を行っている。2019年6月まではPCR落札後できる単位が1週間だったため、最低でもその期間に対応できるPCR設備が求められた。ルール変更後の2019年7月〜2021年6月はPCR落札できる単位が1日になったため短期間のPCR供給が行える設備で対応できるようになった。再変更後の2021年7月以降はPCR落札できる単位が4時間になり、より短期間のPCR供給が可能となり、1つの案件による設備の拘束が減り運用しやすくなったという。
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