ドイツでハイブリッド蓄電池システム事業を実証、PCR供給で約95%の落札を達成研究開発の最前線(1/2 ページ)

NEDOはドイツで実施したハイブリッド蓄電池システム実証事業の成果と今後の展望について発表した。

» 2023年11月01日 10時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2023年10月30日、東京都内とオンラインで記者会見を開き、ドイツで実施したハイブリッド蓄電池システム実証事業の成果と今後の展望について発表した。

4つのサービスを展開し成果を取得

 NEDOは2017〜2020年2月、海外実証として、リチウムイオン電池(短時間/高放電率)とナトリウム/硫黄(NaS)電池(長時間/低放電率)の異なる充放電特性を組み合わせた大容量ハイブリッド蓄電池システムをドイツに構築し、同国の需給調整市場に実際に入札参加するという事業を実施した。需給調整市場とは電力需給バランスの維持や周波数制御に必要な調整力を取引する市場を指す。

需給調整市場のイメージ[クリックで拡大] 出所:NEDO

 大容量ハイブリッド蓄電池システム実証事業の目的について、NEDO スマートコミュニティー・エネルギーシステム部 主査の廣瀬圭一氏は「同実証で得られた知見を共有/展開し、国内でも2024年度から公募入札が始まる需給調整市場(1次/2次)の活性化に貢献することを目的とした」と話す。

 実証事業名は「エネルギー消費の効率化等に資する我が国技術の国際実証事業/独国ニーダーザクセン州大規模ハイブリッド蓄電池システム実証事業」で、実証サイトはドイツのニーダーザクセン州にあるファーレル変電所となった。実証事業では、日本側はNEDOが委託契約を結んだ日立化成(現レゾナック)、日立パワーソリューションズ、日本ガイシが参画し、ドイツ側はニーダーザクセン州、EWE Verband、EEW Holding、EWE AG、be.storaged、EWE NetZ、EWE Vertriebが参画し、日独共同プロジェクトで大容量ハイブリッド蓄電池システム実証事業を行った。

実証サイトの位置と設備の外観[クリックで拡大] 出所:NEDO
日独共同プロジェクトの体制[クリックで拡大] 出所:NEDO

 実証事業により検証できた主な提供サービスは「Primary Control Reserve(PCR、1次調整力)供給」「Secondary Control Reserve(SCR、2次調整力)供給」「バランシング(同時同量対応)」「無効電力供給」の4つだ。

 PCR供給は、送電事業者(TSO)とバランシング市場を対象としたサービスで、実需要タイミングでの需給調整メカニズムに対し、自端周波数の基準値からの偏差に応じて自動応答30秒以内で発動し、ガバナフリーに相当する機能を持つ。同サービスにより2019年7月〜2020年2月にかけてドイツの1次需給調整市場で1〜9MWの入札単位で全体のうち約95%の落札を達成した。廣瀬氏は「システム特性重視の運用でこの落札率を実現した」と述べた。

1週間単位のPCR供給の運用事例[クリックで拡大] 出所:NEDO

 SCR供給もTSOとバランシング市場を対象としたサービスで、実需要タイミングでの需給調整メカニズムに対し、TSOの指令に従い自動応答が5分以内で発動し、負荷周波数制御(LFC)の役割を果たす。同サービスでは、4MW以上での認可取得の目標に対し、6MWでの認可取得に成功した。

 蓄電池でのSCRの認可取得はドイツで初の実績で、入札実績は上げ調整力で4時間×61回、下げ調整力で4時間×50回となった。上げ調整力は供給区域の需要に対して供給する電気が不足となった場合に、電気を供給あるいは需要を抑制するための調整力で、下げ調整力は供給区域の需要に対して供給する電気が余剰となった際に、電気の供給を抑制あるいは需要を増加するための調整力を指す。

 なお、SCR供給で大容量ハイブリッド蓄電池システムの各電池の電力残量不足時には、スポット市場から残量調整用の電力を調達し、各電池の残量差が拡大した際には残量が多い方が少ない方に供給することで均一化した。

 バランシングは、電力取引会社や電力小売りなど(BRP)と、翌日に発電または販売する電気を前日までに入札させ売買を成立させるスポット市場を対象としたサービス。TSOの需給計画に沿って、市場取引のゲートクローズまで行う需給調整(BRPによる需給調整メカニズム)に対し、バランシング対象企業群での電力の需要と供給量の差(インバランス)の低減およびスポット市場への電力供給を行う。

 同サービスでは、当日受注調整市場の価格が低いタイミングを中心に買電し、価格が高いタイミング中心に売電を行うことで、価格差により収益を得る。取引結果に準じた出力が行えることも確認し、風力発電で生じるインバランスを大容量ハイブリッド蓄電池システムで低減した。

 無効電力供給は、配電事業者(DSO)と相対取引(OTC)を対象としたサービスで、これにより将来の市場を想定した系統安定化の技術検証を行った。同サービスでは、大容量ハイブリッド蓄電池システムからの無効電力供給により、変電所の潮流(電力系統内の有効電力および無効電力の流れ)の力率を改善した。

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