日産自動車が取り組む「社会をデザインする交通安全活動」とは安全システム

日産自動車の長谷川哲男氏が「交通安全未来創造ラボ〜社会をデザインする交通安全活動〜」をテーマに行った講演の模様を紹介する。

» 2023年10月31日 06時00分 公開
[長町基MONOist]
日産自動車の長谷川哲男氏

 ITmedia Virtual EXPO 実行委員会が主催し、アイティメディア MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、BUILT、スマートジャパン、TechFactoryが企画したオンライン展示会「ITmedia Virtual EXPO 2023秋」が2023年8月29日〜9月29日で開催された。

 ここでは、同展示会において、日産自動車 グローバル技術渉外部 技監 交通安全未来創造ラボリーダー兼研究員の長谷川哲男氏が「交通安全未来創造ラボ〜社会をデザインする交通安全活動〜」をテーマに行った講演の模様を紹介する。

持続可能な移動のデザインとは

 自動車を取り巻く環境は急激に変化している。その変化は、大まかに分けて地球温暖化、高齢化、都市化、過疎化の4つに分けられるだろう。自動車メーカーは、温暖化に対してはカーボンニュートラル社会の実現、高齢化に向けてはいくつになっても安心して使える移動手段の提供、都市化に対しては渋滞や事故のない高効率な移動手段の創出、過疎化対策では住民の生活基盤に根差した街とモビリティのデザインなどの対応策を打ち出している。

 中でも高齢化については、社会の共通課題であり、日本においては特に深刻だ。75歳以上の免許保有数は2022年には667万人と右肩上がりで増加している。そして免許人口10万人当たりの死亡事故件数も拡大しており、長谷川氏も「近年、高齢ドライバーが引き起こす事故が社会問題となっており、自動車メーカーとしてはこの問題に真摯に取り組みたい」と問題解決に向けて意欲を示した。

 自動車の共通課題は持続可能な移動のデザインであり、これは大きく「環境にやさしい移動」と「維持することもやさしい移動」の2つのカテゴリーに分けられる。前者はカーボンニュートラル社会の実現で、電気自動車(EV)の普及拡大や再生可能エネルギーの活用促進である。後者は、いくつになっても安心して使える移動の提供と、それに向けた安全技術の普及拡大、また、生活基盤に根差した街とモビリティのデザインとして、持続可能なモビリティサービスや自動運転による新たな移動の実現が必要条件となっている。

 日産自動車では温暖化や高齢化、都市化、過疎化の4つの社会変化に対応するために、電動化と知能化の両面からアプローチしたクルマづくりを行っている。これまでも課題解決に向けて同社は技術革新を続け、常に新しい技術を開発実用化してきた。電動化については駆動用バッテリーやモーターの研究開発を1990年ごろから開始。2010年に量産EVを発売し、その後も改良を進めている。最近では軽自動車タイプのEVを投入して高い評価を得た。さらに、EVだけでなく「e-POWER」などハイブリッドの技術も改良を加えている。

 知能化については必要技術である自動運転がここ30年でさまざまな進化を遂げ、部分的に自動走行するプロパイロットのような技術が実用化された。センシング技術などの高度化により運転支援は大きく進んでいるが、完全自動運転の実現にはまだ時間がかかるようだ。

1962年から続く交通安全への取り組み

 また、日産自動車は交通安全への取り組みを強化している。その施策のポイントとして高齢ドライバーに限らず、交通事故を防ぐために「安全なクルマ」と「安全に運転する」という2つの要素を上げる。安全運転を啓発するための活動を1962年に始めてから、60年以上継続中だ。この経験が生かされ、今では社会をデザインする「ソーシャル交通安全」へと進歩した。当初は紙芝居や絵本など一方通行の活動であり、効果も一時的であった。それを、社会をデザインするという活動に方向を切り、3つの取り組みを実施している。

 1つ目は2010年にスタートした「おもいやりライト運動」だ。これは夕暮れ時にドライバーに早めのヘッドライトの点灯を呼びかけるもので、交通事故を削減することを目指した。2つ目は「ToLiton(Town, Life and Transportation) Safety Initiative」というもので、2018年にまち・生活・交通をつなぐ提案を行う交通プロジェクトを立ち上げた。この活動は独自で考え出した「ハンドルぐるぐる体操」などを通じて、筋力と認知力を高めて、高齢ドライバーの安全走行を支援している。

「ハンドルぐるぐる体操」を新潟大学と共同で創案[クリックで拡大] 出所:日産自動車

 3つ目は2021年に設立した「交通安全未来創造ラボ」。新潟大学などと産学連携したバーチャル研究所として設けた。クルマ社会には、運転に不安を抱いている人や交通事故の被害に会いやすい人などさまざまな人々が共存している。そこで、共生社会のパートナー一人一人を「想像」し、安全で安心な交通の未来を「創造」することが求められる。とりわけ、高齢ドライバーの交通事故削減は喫緊の課題だ。この状況において、交通事故がなく、持続可能で安全・安心なダイバーシティー(多様性)を確保した交通社会を目指す。

 ラボには事故要因分析などの「研究活動」と研究成果を全国に広め定着させる「社会実装」の2つの機能がある。そして、多様性のある専門分野や地域、世代、ジェンダーを融合することでイノベーションを生み出すという手法を取り入れている。

 ラボでは、社会問題となっている高齢ドライバーの交通事故削減から優先的に研究を進めている。研究フローとしては、交通事故要因の究明、自覚ツール&交通安全ソリューションの開発、定着手法の開発、効果検証の4つのステップがある。(1)最先端の有効視野研究、(2)運転能力を認知・身体機能から解剖すること、(3)認知・身体機能の低下を生活・社会・文化までさかのぼって探求、(4)高齢者の健康・運転寿命を延ばす、(5)行動変容を誘引するソーシャルデザイン研究を包摂する、という5つの方針がある。

交通安全未来創造ラボで開発した「有効視野計測システム」[クリックで拡大] 出所:日産自動車

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