安全規格の実例をいくつか紹介する。
電気製品で、製品の内部に発熱部品があれば通気孔が開いている。この通気孔範囲の位置と通気孔個々の形状の寸法は安全規格で規定されている。基本的な考えは、異物が製品内部に侵入しないこと、もしくは製品内部の電気部品などが燃えても製品外部に容易に出ないことである。
発熱する製品において、ユーザーが触れそうな箇所の温度は、火傷しないためにある一定の温度以下に規定されている。さらには、通気孔からの排熱の温度にも規定がある。これは低温火傷に対する規定である。
樹脂は火を付ければ燃える。しかし、その燃えにくさのグレードが樹脂の材質ごとに規定されている。これを「難燃グレード」という。製品の内部部品や外装部品で使用できる樹脂の難燃グレードはそれぞれ規定されている。
壁掛けテレビや天井からつるす製品は、その耐荷重が規定されている。もちろん、落下してユーザーに危害を与えないためである。
例えば、折り畳みテーブルがあるとする。この製品は折り畳み方が難しく、力任せで脚を畳もうとすると指を挟んでしまう懸念があった。このとき、安全規格に“指を挟まないこと”に関する内容の記載がなければ、自社でこの対策を講じる必要がある。
もちろん、絶対に指を挟まない機構であることが一番望ましいが、そのような機構に設計できない、もしくはそのような機構に設計すると部品コストが高くなり過ぎてしまう。そうなると、指を挟みそうな箇所にラベルを貼り、ユーザーに注意を促す方法で対応する。このとき、体裁的な問題やスペースの問題で注意ラベルを貼ることができない場合には、取扱説明書の注意書きで対応することになる。
安全性を製品の設計で対応するには、その製品を使用するあらゆる環境やユーザーの使い方のパターンを想定して、製品のあらゆるモード(Hi/Lowなど)で検証しなければならない。もちろん、あらゆるパターンとモードで試験を行うことは時間的にも費用的にもできないため、これらの中で“最も厳しいパターンとモードを選択して試験を行う”ことになる。
製品の設計で対応ができなく、注意ラベルや取扱説明書の注意書きで対応する場合は、その危険度と発生頻度を1〜10などの数値で想定し、その数値の合計で注意ラベル対応、もしくは取扱説明書対応を決めることがある。安全性の対応に関して、企業で一定の基準を設けるためである。
昔は、製品を使ったユーザーに危険や損害があった場合、ユーザー自身がメーカーの過失を証明しなければならなかった。しかし、その証明は実際のところ非常に困難であったため、日本のメーカーは国から優遇されていたといえる。その理由は、戦後の復興には製造業に関わる企業の発展が重要であったからである。つまり、ユーザーの安全よりも製品/メーカーの発展を優先してきたということだ。
一方、米国では「電子レンジでぬれた猫を乾かそうとしたら死んでしまい、電子レンジメーカーが訴えられた」や「熱いコーヒーの入った紙コップを持った客がそれを落とし火傷を負い、その客がコーヒーショップを訴えた」などの話がある。ユーザーの安全を優先した発想である。
1995年になると、日本で「PL法(製造物責任法)」が施行され、製品の欠陥でユーザーに危険や損害が生じれば、製造メーカーに損害賠償を求めることができることになった。つまり、ユーザーの安全を重視した設計が重要視され始めたのである。取扱説明書に下図のような記載がたくさんあるのは、そのためである。製品の設計で安全性を考えることはとても重要なのだ。 (次回へ続く)
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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