送電コイルの設置位置は、事前の走行データ分析を基に信号機の手前30m以内とした。全走行時間のうち25%の時間で、クルマが信号機の手前30mの範囲に滞在することが分かったためだという。さらに、滞在時間のうちの3分の2が赤信号による停車となる。信号待ちなどで送電コイルの上に停止する場合だけでなく、走行速度が時速30km以下であれば送電コイルの上を通過するだけでも給電できるため、送電コイルの設置位置に最適だと判断した。
今回設置するシステムは出力が合計50kWとなる。1秒で走行距離100m分、10秒で1km分の電力を供給できるという。今回の試験車両は後輪2輪に受電コイルを設置しているので、4輪全てに受電コイルを装着すれば2倍の充電が可能になる。
全ての信号機の手前30mにワイヤレス給電があると仮定すると、走行中給電が可能なクルマは200km以上走行したあとのバッテリー残量が0.8kWhのプラスとなり、走行中給電に対応していない場合はバッテリー残量が30.7kWhのマイナスとなる試算だ(電費が7km/kWhの乗用車の場合)。走行中給電が可能なクルマはバッテリーの電力を最も消費した場合でも4kWh以内なので、信号機に近づき、通過するたびに充電すれば、車両に搭載するバッテリーの容量が余裕をもって8kWh程度あれば走り続けることができる。
柏の葉キャンパス駅と東京大学の柏キャンパスを結ぶシャトルバスとその走行ルートを対象に、全ての信号機の手前とバス停にワイヤレス給電があると試算すると、バッテリー残量は走行スタート時からプラスになる。シャトルバスに搭載するバッテリーの容量は4kWhほどで足りる想定だ。半日程度の長時間の走行にも耐えられる。
一般的な電動車のバッテリーの容量は、日産自動車「リーフ」で60kWhと40kWh、「サクラ」では20kWh、トヨタ自動車のRAV4 PHVで18.1kWh、三菱自動車「アウトランダーPHEV」で20kWhだ。バスなど商用車タイプのEVでは搭載量が100kWh以上になる。10kWh以下にバッテリー搭載量を抑えられれば、コストや車両の重量の面でメリットが非常に大きい。
このコンセプトの実現に向けて、実用性や普及のしやすさにつながる技術開発を行った。
車両がいないときに送電コイルに通電したままにしないため、車両検知システムを開発した。車載通信機を通じてクラウド経由で送電コイルの付帯設備に車両の接近を知らせ、送電準備を行う。その上で、送電コイルの上に受電コイルがあるときだけ送電する。2段階で車両を検知し、待機電力を極力小さくする。なお、センサーではなく微弱な電力を使用し、送電コイルの上に金属の異物がないかを検出する機能も備えた。
ワイヤレス給電は、受電コイルと送電コイルがなるべく近い距離にあることが望ましい。コイル同士が遠いと送電コイルが受電コイルに送る磁界が減り、効率が低下する他、出力に対する電流の割合が高くなり、電流上限での出力制限が起こりやすくなる。ただ、保安基準では車両下部と路面に50mm以上の空間を確保しなければならない他、路面が一定の強度を持つにはアスファルトの厚みも必要だ。
これに対応してコイルと路面を一体化した高耐久性のプレキャストコイルを開発。繊維補強したセメントを使用することで、薄くても強度を持つ路面を実現し、路面の浅いところに送電コイルを設置することができた。設置工事がシンプルになり、短時間で施工を完了できるというメリットも生まれた。
車両ごとに受け入れられる出力が異なることに対応して、受電コイル側で電力を適切にコントロールする制御も行う。
現在開発中の技術としては、送電コイルの位置に合わせて走行、停止するためのステアリングやブレーキのアシスト技術がある。トレーニングや慣れによって送電コイルを狙って運転することもできるとしているが、アシスト技術も作り込む。
これらの取り組みは国土交通省のスマートシティーモデル事業として行われている。2025年度に事業としてはいったん終了するが、関西のバス会社で2028年ごろの試験導入に向けて基本技術を提供するなど取り組みは継続する。2025年開催の大阪・関西万博でも技術を披露する。
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