覚悟を決めて値段を2倍に、「越前打刃物」の柄を蒔絵でモダンに彩る夫妻の挑戦ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(8)(3/7 ページ)

» 2023年09月12日 10時00分 公開

「いままでが安すぎた」、反対されるも値上げ決意

――山謙木工所は、時代とともに作るものを変化させてきたそうですね。

卓哉さん そうなんです。初代はろくろという回転する道具を使ってお椀などを作る「ろくろ木地師」でした。2代目は草刈り鎌の柄を製造し、3代目である僕の父が包丁の柄を作り始めました。木工というベースは共通していますが、代々、時代に合わせて変化して来ました。ですので、父からは「柄にこだわることはない、好きなことをしていい」といわれているんです。

――卓哉さんご自身はどうお考えですか?

卓哉さん 柄の製造というベースは続けつつ、方向性を変えていこうと取り組んでいます。僕が高校生のころ、父が柄を作り始めたのですが、そのころは安いものを大量生産する時代でした。すごく忙しいのに、経営は厳しく利益は出ていないという状態で、私はもっと高単価で付加価値の高い製品にシフトしていかないといけないんじゃないかと感じていました。しかし、そうすると、大量生産品を納めているお客さまに提供できなくなるというジレンマもありました。

――価格を上げるのは難しい話ですよね。

卓哉さん そうですね。それに、山謙木工所の中で“付加価値が高くて高単価”と位置付けられている商品でも、僕からしたら安いと思ってしまう価格でした。それでもお客さまからは「山謙の柄は高い」とよく言われていて。

 それをちゃんと確かめようと思って、知り合い何人かに柄を持っていって、「これいくらなら買いますか?」とか「いくらなら作りますか?」聞いて回ったんです。すると、返ってきた答えが、当時山謙がお客さまに卸していた単価である500円〜1000円よりも、はるかに高い金額だったんです。

 あるお客さまが、よその唐木細工屋さんに当社の柄を持っていき製造を依頼したら、「この材料を使ってこれだけの細工をすると、単価で8000円〜1万円はもらわないといけない」と言われた、という話も聞きました。つまり、今までが「利益がないのに低価格すぎた」のです。行動しなければこの状況は変わらないと思い、値上げに踏み切りました。

――お客さまやご両親の反応はいかがでしたか?

卓哉さん 値上げする前に、ある若いお客さまから「この価格でやっていて厳しくないですか? 厳しいなら値上げしてもらって構わないですよ、僕も頑張るので。その代わり徐々に上げるんじゃなくて一気に上げてください」とお言葉をいただきました。徐々に上げられると、その先のお客さまも徐々に値上げしなくてはいけなくなるので、やるなら一気にしてほしいということでした。

 両親からは止められました。そんなことやったらうちがダメになると。でも、やらなきゃ先がないんだからやるしかないと説得し、何か言われたら全部僕が対応するからと言って値上げに踏み切りました。

――どのくらい値上げしたのですか?

卓哉さん その当時の価格を倍に値上げしました。倍に値上げしてお客さまが半分になったとしても、売り上げは変わらないですし、空いた時間で新しいことをする覚悟でした。やってやれないことないだろうと思って踏み切ったら、結果、ほとんどお客さまが減りませんでした。とてもありがたいことです。

――ご両親の心配も感じつつ、踏み切ったその背景には、どんな気持ちがあったのでしょうか。

卓哉さん 本当は僕もめちゃくちゃ心配性なんです(笑)。いつも悪いことばかり頭に浮かぶタイプなんですが、その時はさまざまな方との付き合いも増え、いろいろな話を聞いていくうちに、すごくプラス思考になっていたのかもしれません。やるしかないという気持ちで、不安はほとんどなかったですね。

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