――先ほど、「昔はどの会社の柄もほとんど同じだった」とおっしゃっていましたが、それは現在もそうですか?
卓哉さん 低価格帯の柄はどの会社もほとんど同じものを作っていると思います。この辺りの地域で高価格帯の柄を作り始めたのは山謙木工所が最初で、今も当社だけが作っています。この黒い柄の包丁が代表的な製品です。それまでは、白い木材を使った柄がスタンダードだったんですよ。
――今では黒い柄の包丁もよく見ますよね?
卓哉さん そうですよね。昔から包丁は白い柄がスタンダードで、30年以上前に黒い柄を作った時には「板場に黒い柄の包丁なんて、不衛生だ」といわれて見向きもされませんでした。
でも、県外にある鍛冶屋さん、たった1社だけが「これはいい。僕が売るからこれ作ってよ!」と言ってくれたんです。その1社のためにほそぼそと作り続けていたのですが、10年ほど前に出会ったある若いバイヤーさんが、黒い柄の包丁を海外にどんどん輸出し始めたんです。すると、海外で評価されて人気が出ました。それから日本でも人気が出始めて、今では当社の主力製品になっています。
――海外輸出は今でもされているのですか?
卓哉さん 今でも輸出しています。海外輸出も1つのきっかけですが、10年ほど前から新しいことに挑戦しようと考えている越前打刃物の作り手同士がつながり、仲間としてやっていこうという意識が芽生えたように思います。
――作り手同士がつながったきっかけがあれば教えてください。
卓哉さん 海外輸出をきっかけに知り合ったバイヤーさんが、日本のモノづくりを海外の方に紹介する機会を作ってくれたり、作り手のみんなで海外のお客さまに会いに行くことを提案してくれたりして、仲間感が徐々に強くなっていきました。また、越前市のタケフナイフビレッジには若手の職人さんがたくさんいて、さまざまなイベントを開催しているので、そこでのつながりも大きいです。
――タケフナイフビレッジの方々は、刃物を作る職人さんが多いですよね。
卓哉さん そうなんです。最初、木工をしているのは僕だけでひとりぼっちでした。でも、このままじゃアカンなと思い、声を掛けたら歓迎してくれて、今ではみんなで食事に行ったり、話したりする仲になりました。
――交流の中でうれしかったことや、思い出に残っていることはありますか?
卓哉さん 仲間で展示会に出展した際に、準備の段階で「どうやって包丁、柄の良さを伝えようか」とみんなで議論したことがありました。それまでは、朝から晩まで工場にこもってひたすら機械をいじる生活を10年くらい続けていたので、人と話しながら何かを生み出すのってものすごく楽しいなと感じたんです。
「包丁ってすごく良い素材を使っているよね」「柄ってこんなふうにできているのか!」と話しながら、自分とは別視点からの意見をもらえることへの喜びも感じました。大げさですが、その時に初めて、自分の仕事って誇れる仕事なのかもしれないと思いましたね。
――みんなで1つのものを作り上げることが、昔から好きなタイプでしたか?
卓哉さん いや、そんなことはないですね。面倒なことは嫌いなタイプでしたが、みんなが「柄、いいね!かっこいい!」と言ってくれて、仲間に入れてくれたので、やってみようという気持ちになりました。
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