越前/鯖江を「産業観光の聖地」にする、大反響モノづくりイベント仕掛け人の夢ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(5)(1/4 ページ)

本連載では、厳しい環境が続く中で伝統を受け継ぎつつ、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は福井県鯖江市と越前市、越前町で開催される産業観光イベント「RENEW」の発起人である新山直広さんにお話を伺いました。

» 2023年06月06日 08時00分 公開

MONOist編集部より

本連載はパブリカが運営するWebメディア「ものづくり新聞」に掲載された記事を、一部編集した上で転載するものです。

ものづくり新聞は全国の中小製造業で働く人に注目し、その魅力を発信する記事を制作しています。モノづくり企業にとって厳しい環境が続く中、伝統を受け継ぎつつ、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。


 「RENEW(リニュー)」は、福井県鯖江市/越前市/越前町で開催される、持続可能な地域づくりを目指した産業観光イベントです。“見て・知って・体験する”を合言葉に、普段立ち入ることのできない工房を見学したり、モノづくりにトライしてみたりと作り手とつながることを目的としています。

RENEW 2022:「RENEW(リニュー)」は、福井県鯖江市と越前市、越前町で開催される、持続可能な地域づくりを目指した工房見学イベントです。

 2022年10月に開催されたRENEWの最新イベントレポートは、こちら(前編後編)よりご覧ください。編集部はRENEWに参加し、その盛り上がりに驚きました。その盛り上がりの背景を探るべく、RENEW発起人である合同会社ツギの代表、新山直広(にいやま なおひろ)さんにお話を伺いました。

新山直広さん 出所:ものづくり新聞

新山直広さん

大阪府吹田市出身。大学時代に福井県を訪れ、卒業後は福井県鯖江市の企業に就職。その後、鯖江市役所の嘱託職員としてデザイナー業務に従事。市役所を退職後、自身が設立した合同会社ツギで、工房見学イベント「RENEW」や福井県内企業の製品を販売する「SAVA!STORE」を運営。2022年7月より、RENEW事務局が一般社団法人SOE(ソエ)として法人化、その運営に携わる。産地に来て見て体験するという「産業観光」という考え方を大事にしている。


作り手は疲弊し「デザイナーって大っ嫌いなんだ」

RENEW 2022の様子[クリックして拡大] 出所:ものづくり新聞

――新山さんが福井と関わりを持つようになったきっかけを教えてください。

新山さん 学生時代は建築家を目指していたのですが、大学生の頃にリーマンショックがあり、「時代が変わるんだろうな」という勘が働きました。その頃から建物を建てることだけでなく、今ある建物を生かしていきいきとした社会を作るという方に関心が向きましたね。

 そんな思いが芽生えた頃に「河和田アートキャンプ」という学生が参加できるアートプロジェクトに参加し、初めて福井県を訪れました。その後ご縁があり、アートキャンプ運営会社に就職し、赴任したのが福井県鯖江市でした。

――移住当初はどんな思いをお持ちでしたか?

新山さん 建築がバックグラウンドにあったので、はじめは都市計画や地域づくりに取り組みたいと考えていました。でも実際移住してから早い段階で、産地の方々の疲弊をすごく感じました。お世話になっていた職人さんが「ここの町の産業も終わりだよ」と言っていたのを覚えています。同時に、「まちづくりも大事かもしれないけど、僕らの町はモノづくりの町だから、モノづくりが元気にならないと町は元気にならないんじゃないか」とも言っていました。

 もともと地域づくりがしたいと思って福井に来たけど、そういう厳しい面を目の当たりにして物事を柔軟に考えてみた結果、モノづくりをどうにかして活性化させないといけないなという結論に至りました。そして、僕は何をすれば町に貢献できるだろうと思った時に、モノづくりに必要なのはデザインじゃないかと思ったんですよね。

――そう思ったのはどうしてでしょうか?

新山さん 15年くらい前はWebサイトを持っていない職人さんがめちゃくちゃ多かったり、自社製品を持っていてもパッケージがイマイチだったり、良いものを作っていても、その良さを伝えることに関しては苦手な町なんだろうなと感じていたりしたからです。それは長い間、OEM中心で仕事をしてきたからデザインを考える必要がなかったという背景もあります。

「モノづくりに必要なのはデザインじゃないか」 出所:ものづくり新聞

――デザインが必要だと職人のみなさんに伝えるのは難しい面もあったのではないかと思うのですが、いかがでしたか?

新山さん おっしゃる通りです。当時、地域の壮年会に所属していて、40、50代の方々の前で「デザイナーになります」と宣言したことがありました。その時に「俺らデザイナー大っ嫌いなんだ」と言われたのが衝撃的でした。聞くと、「デザイナーは気取っていて、好きなものを作って全然売れないし、ホンマに詐欺師だ」みたいな、彼らはそんな感覚を持っていることが分かりました。

――それは衝撃的です。

新山さん まさかそんなイメージを持っているとは知りませんでしたが、よくよく聞いてみると、バブル期に東京から全国にデザイナーが派遣され、一方的に「これを売りなさい」と指示していたケースがあったようです。結果として全く売れず、産地の作り手は誰も恩恵を受けなかったというのが一番良くなかったのではないかと思いました。

――デザイナーと聞くと、当時のことがよみがえってしまうのですね。

新山さん 誰も販路のことを考えていなかったんだと思います。そこで、この町でデザイナーとして生きていくなら、「商流や販路のことまでちゃんと考えないと絶対通用しない」と思いました。そうしなければ、僕も詐欺師呼ばわりされてしまうだろうなと。

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