産業技術総合研究所は、人工光合成化学プロセス技術研究組合、東京大学、宮崎大学、信州大学とともに、太陽光によって水を高効率に分解できる赤色透明な酸素生成光電極を開発した。
産業技術総合研究所(産総研)は2023年8月18日、人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)、東京大学、宮崎大学、信州大学と共同で、太陽光によって水を高効率に分解できる赤色透明な酸素生成光電極を開発したと発表した。
この光電極は、高い酸素生成活性と、二直列CuInSe2(セレン化銅インジウム)太陽電池を組み合わせた水素生成用Pt(白金)/Ni(ニッケル)電極触媒との2段型構造を可能とする高い光透過率を両立している。これにより、疑似太陽光の照射下で外部電源を用いない水の分解反応実験で、太陽光−水素変換効率(STH)を実用化の目安となる10%にまで高めることに成功した。
同研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構の「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発(人工光合成プロジェクト)」の一環として2014年度から進められており、2019年に窒化タンタル(Ta3N5-NR)光触媒を用いた赤色透明な酸素生成用光電極を開発している。しかし、出力する光電流が理論上の最大値の半分程度であったことや、水の分解反応中に短時間で光電流値が半減するため、電極性能向上と長寿命化が課題となっていた。
電極性能の向上を図るため、窒化ガリウム(n型)被覆サファイア(GaN/Al2O3)の基板上に、TaN(窒化タンタル)の平坦膜を成膜する。その上に直径がnmサイズの棒状(ロッド)のTaNを成膜し、表面にFeNiCoOx(鉄−ニッケル−コバルト系複合酸化物)からなる助触媒をコーティングした。
また、助触媒のコーティングに、光電着法とディップコーティング法を組み合わせた表面修飾法を用いることで、表面絶縁膜の形成を阻害し、助触媒の劣化を抑制する。その結果、耐久性が従来よりも約27倍に向上し、反応開始から3時間以上、劣化することなく酸素を生成できることが実証された。
TaNの光吸収や背面への光透過を阻害しないため、2段型構造により、波長600nmまでの光を1段目のナノロッド状TaN光電極が、600〜1100nmの光を2段目の二直列CuInSe2が受光して、それぞれ酸素と水素を生成する。今後、より安価に水素製造が可能となる粉末型光触媒シートの開発を目指す。
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