ブリヂストンがEV向け技術を備えたタイヤをモータースポーツに初投入、MCN比率は63%電動化

ブリヂストンは冠スポンサーを務めるソーラーカーレース「2023 Bridgestone World Solar Challenge」の概要について発表した。

» 2023年08月30日 10時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 ブリヂストンは2023年8月29日、東京都内で会見を開き、同社が冠スポンサーを務めるソーラーカーレース「2023 Bridgestone World Solar Challenge(BWSC2023)」の概要について説明した。

BWSC2023ではシリコンパネル太陽電池の使用が義務化

 BWSCは、高いエネルギー効率と安全性が要求されるソーラーカーのレースで、車両開発には空気力学、電気工学、電子工学などさまざまな分野の知識が求められる他、世界最高峰のソーラーカー技術が集結し、持続可能なモビリティの次世代革新技術の開発競争が行われる。

 さらに、さまざまな国/地域から集まった学生による40以上のチームが参加しており、ソーラーカーの開発は、学生と企業のエンジニアによる産学共創で行われ、組織の垣根を超えて切磋琢磨する、未来のモビリティ人材育成の場となっている。「まさにソーラーカー開発のオープンプラットフォームだ」とブリヂストン モータースポーツ部門長 堀尾直孝氏は話す。

 BWSC2023は、2023年10月22〜29日にオーストラリアで開催され、20以上の国と地域から約40チームが参加する。日本からは、東海大学、工学院大学、和歌山大学、呉港高校などが参加予定だ。同レースでは、コースがダーウィンからアデレードの約3000kmで、オーストラリア大陸縦断のタイムを競う「チャレンジャークラス」と、実用的な車両をデザインし開発した上で、いかにエネルギー効率良く安定的に走ることができるかを競う「クルーザークラス」を設けている。

 なお、前回大会との大きなレギュレーションの変更として、シリコンパネル太陽電池の使用義務付けや3輪車と4輪車での出場に対応している点を挙げている。

BWSC2023の概要[クリックで拡大] 出所:ブリヂストン
BWSC2023の参加チーム[クリックで拡大] 出所:ブリヂストン

BWSCを支えるタイヤ技術

 ブリヂストンはBWSC2023で電気自動車(EV)向けのタイヤ基盤技術「ENLITEN(エンライトン)を搭載したタイヤを40チーム中35チームに供給する予定だ。ENLITENを搭載したタイヤをモータースポーツに投入することは今回が初となる。

 同社 ブリヂストン モータースポーツ部門 MSタイヤ設計第1課の木林由和氏は「BWSCでは限られた電力で長距離を走りきる低電費性能とレースを走りきる耐久性能が求められる。こういった課題を解決するのがENLITENだ」と強調する。

 ENLITENは、ドライ、ノイズ、乗り心地、摩耗、再生資源/再生可能資源の比率(MCN)、低転がり抵抗、重量、ハンドリング、ウェットで構成されるタイヤの性能円(パラメータ)を拡大しながら求められる複雑な性能を実現し、カスタマイズに対応する。性能円拡大により商品設計のアジリティも高められる。例えば、ENLITENにより、乗用車用タイヤに求められる基盤性能を拡大するとともに、一部の機能を高めることができる。

 同社がBWSC2023で35チームに提供するタイヤでは、低転がり抵抗、耐摩耗性能、軽量化の性能に特化し、MCN比率を前回大会と比べ33%増の63%とした。加えて、DHLの環境に優しい輸送サービス「GoGreen Plus」を活用し、持続可能な船舶燃料の使用とVERゴールドスタンダードのカーボンクレジットによる排出量の相殺を組み合わせることで、100%カーボンニュートラルな輸送を実現している。

BWSCを支える「ENLITEN」技術[クリックで拡大] 出所:ブリヂストン

ソーラーカーの要素技術が進化し黎明期と比べ性能が大幅に向上

東海大学 工学部機械システム工学科 教授の木村英樹氏[クリックで拡大]

 参加チームの1つである東海大学 工学部機械システム工学科 教授の木村英樹氏は「持続可能なモビリティの可能性を広げる、ソーラーカーへの期待について」と題し、同大学のソーラーカーの動向や最新の取り組みを紹介した。

 近年、同大学が開発するソーラーカーでは、太陽電池の発電性能の向上、モータ/インバーターの進化、ボディーの軽量化、空気抵抗の低減、バッテリーの蓄電性能の向上、タイヤの転がり抵抗係数の低減、運行戦略の高度化により性能が向上している。

 採用している単結晶シリコン太陽電池に関して、電気変換効率は、1990年代は16〜17%だったが、現在は23〜24%になっている。基板は従来はp型を使用していたが現在はn型を採用し、これまで表面に取り付けていた電極は裏面に設置している。太陽電池のpn接合の手法も従来の熱拡散から、CVD(化学的気相成長)とヘテロ接合に変更されている。

 モーターの伝達方式は、従来はチェーンで減速するタイプだったが、現在はモーターの回転力を間接的機構(ギアボックスなど)を介さずにダイレクトに駆動対象に伝達する方式のダイレクトドライブを採用している。モーターの鉄心はこれまでケイ素鋼板コアを使用していたが現在はアモルファスコアを採用し、マグネットワイヤは丸線から平角線の使用に変更した。これにより現行品のモーターのエネルギー変換効率は従来品と比べ8%増の98%となった。

 タイヤは、BWSCの黎明期ではソーラーカー用のタイヤが存在しないことから、自転車あるいはオートバイ用のタイヤを流用したことに加え、それをもとに開発したバイアスタイヤを使用していた。

 現在は、ラジアル構造、チューブレス、低損失ゴムなどを採用したソーラーカー専用タイヤを採用し、転がり抵抗は黎明期に使用していたタイヤと比べ半分以下になった。ボディーは、これまで金属パイプフレームを使用していたが、現在は車体の軽量化を目的に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を採用している。

 空気抵抗の削減を目的とした空力開発ではこれまで、人工的に小規模な空気の流れを発生させ、実際の流れ場を再現/観測する施設にスケールモデルを配置し空気抵抗を計測して空力開発を行っていた。しかし、形状変更に時間がかかり、精度を高めることが困難だった。

 そこで、数値流体力学(CFD)のソフトを活用し、ソーラーカーの空気抵抗を解析する手法を採用した。「サーバの計算能力の向上により、CFDソフトでソーラーカーの空気抵抗をより再現しやすくなった。これにより、空気抵抗が少ないソーラーカーを開発できた。このソーラーカーの抗力係数(Cd値)は優秀な乗用車の半分以下を実現している」と木村氏は語った。

 これらの取り組みによって開発された、BWSC2023の東海大学の最新ソーラーカーは、全長5m、全幅1.2m、全高1.1mで、車体重量はバッテリー込みで140kg。4m2の単結晶シリコン太陽電池を搭載し、1kWの電力で時速80kmの平地走行が可能。さらに、5kWhのリチウムイオンバッテリーで400km以上を走行可能で、速度を落とせば500km以上走行できる。「オーストラリアであれば1日あたり650km程度を移動できる見通しだ」と木村氏は述べた。

東海大学チームのソーラーカー[クリックで拡大] 出所:ブリヂストン

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