天然ゴムより高性能の合成ゴム、ブリヂストンがバイオマスから生産材料技術(1/2 ページ)

ブリヂストンは、天然ゴムとほぼ同等の分子ミクロ構造を達成したポリイソプレンゴムの合成に成功した。天然ゴムと近い性質を実現したため、合成ゴムに置換することが可能になる。生産コストも「市況によるが、天然ゴムより少し高い程度」(ブリヂストン)に抑えたという。

» 2016年12月14日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]
ブリヂストンの迎宇宙氏 ブリヂストンの迎宇宙氏

 ブリヂストンは2016年12月13日、天然ゴムとほぼ同等の分子ミクロ構造の規則性を達成したポリイソプレンゴムの合成に成功したと発表した。天然ゴムと近い性質を実現したため、合成ゴムに置換することが可能になる。生産コストについては「市況にもよるが、天然ゴムよりも少し高い程度」(ブリヂストン)にめどをつけている。また、性能評価の結果、天然ゴムのタイヤ材料よりも耐久性と燃費性能を向上できることも分かった。

 天然ゴムと置換可能な材料の開発に取り組むことにより、持続可能な原材料の利用を進める。2020年代を目標に実用化する計画だ。

なぜ天然ゴムの代わりが必要?

 ブリヂストンは「継続的に利用可能な資源から得られ、事業として長期的に成立し、原材料の調達から廃棄に至るライフサイクル全体で環境や社会への影響が小さい原料」に2050年までに全面的に切り替えることを目指している。

 天然ゴムは乗用車タイヤの原料の27.5%を占める。2015年の天然ゴムの市場は1200万tだったが、グローバルでのタイヤの需要拡大により天然ゴムの使用量は増加する見通しだ。天然ゴムの増産は必要だが、限られた調達先に依存するリスクもある。

 この目標の下、天然ゴムの原料であるパラゴムノキの生産性を向上するために、ゲノム解読で選抜した優良木の育成、病害の早期発見や土壌の病原菌の診断などを検証中だ。また、東南アジアに集中しているパラゴムノキに依存するリスクを下げるため、グアユールやロシアタンポポといった新しい天然ゴム原料の利用に取り組んでいる。

 さらに天然ゴムへの依存度を下げるため、代替材の開発にも取り組んだ成果が今回の発表だ。これまで、「強度や摩耗性能、補強材との接着の良さに関して、合成ゴムが天然ゴムに勝るのは難しかった。しかし、われわれは世界で生産されている天然ゴムの1割を使用しているので、社会的責任を果たすことが重要だった」(ブリヂストン 中央研究所長の迎宇宙氏)という。

どうやってつくる?

 天然ゴムの代替となるのはポリイソプレンゴム。生産や品質を安定させやすく、加工性や反発弾性、動的発熱性に優れているのが特徴だ。天候や地域の影響で生産量や品質が不安定な天然ゴムの欠点をカバーし得る一方で、引っ張り強度や耐久性に課題があった。市場規模は65万tで天然ゴムの20分の1と小さく、生産に石油が必要なこともあり、活用が進んでいないのが現状だという。

 ブリヂストンは、ポリイソプレンゴムの引っ張り強度や耐久性の向上と、生産方法の見直しに取り組んだ。まず、原料に石油を使わず、再生可能資源であるバイオマス由来のイソプレンを使用することに成功した。セルロースなど糖の原材料を想定しているが、具体的には検討中だという。

触媒にガドリニウムを採用してポリイソプレンゴムを合成する 触媒にガドリニウムを採用してポリイソプレンゴムを合成する(クリックして拡大) 出典:ブリヂストン

 また、ポリイソプレンゴムの製造に用いる触媒にガドリニウム(Gd)を用いることで、高性能なポリイソプレンゴムを合成できるようにした。ガドリニウムは希土類ではあるが、合成ゴムの生産に使用する量は少ないのでリスクは低いと見ている。

 ポリイソプレンゴムの合成には、液体のイソプレンを固体にする重合反応を起こすための触媒が必要だ。従来、触媒にはリチウム(Li)やチタン(Ti)、ネオジム(Nd)などが用いられてきた。ガドリニウムは、0℃以下でなければイソプレンをポリイソプレンに変換する能力が低く、工業用として使用するのが難しかったためだ。

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