近年、生成AIが脚光を集めているが、他にもさまざまなAIが存在する。詳細は別稿に譲り、本稿では研究開発に関連する話題として、MIを活用したAIについて紹介したい。
MIとは、統計分析などのインフォマティクス手法を用いて、効率的に材料探索を行う手法である。一般的に、新規材料探索は(1)材料/配合レシピの検討、(2)実験の準備/実施、(3)物性の評価という3つのプロセスで実施される。しかし、例えば(1)材料/配合レシピの検討においては、研究者が過去の研究データを確認しながら経験とカンで検討しており、調査、検討に時間を要する傾向がある。また、それらレシピに基づく(2)実験の準備/実施、(3)物性の評価には多くの工数と時間を必要とする他、実験結果が物性ニーズを満たしていない場合は再度、(1)材料/配合レシピの検討をし直さなければならなくなる。従って、研究開発スピードを上げるためには、いかに少ない実験本数で、目的材料に到達できるかがポイントとなってくる。
そこで、これまでに蓄積してきた成功だけでなく失敗をも含む実験レシピとアウトプットデータを基に材料探索モデルを構築し、目的材料を効率的に探索する手法がMIである。例えば、組成やプロセス実験条件を説明変数X、物性性能を目的変数Yとして、Y=f(X)の材料探索モデルを構築できれば、目的材料の物性Yを実現するための説明変数Xを導くことができる。
この材料探索モデル生成にAIを活用することによって多様なパラメータを取り扱うことができるようになるため、複雑な材料探索シミュレーションモデルの構築が可能となる。実際に、複数の企業では既に実験本数の削減、ひいては研究開発リードタイムの短縮を実現できた事例も出てきており、自社のノウハウやナレッジをAIに継承、蓄積することが現実味を帯びてきている。
さらに特筆すべきは、ここで言うAIは研究開発だけに適用されるものではないという点である。例えば、研究開発データに加えて、顧客やマーケットニーズのデータも学習させれば、商品企画者にもなり得る。自社のエンジニアリングチェーン、サプライチェーンが持つさまざまな情報を学習データとして活用して、AIによる自社商品/サービスの研究開発も実現できるのだ。
では、AIが自社製品/サービスを研究開発するとなれば、研究開発者の仕事がなくなるのだろうか? 答えは否と考える。
過去にも、産業革命を筆頭に、労働者の仕事が大きく変化するタイミングは数多く訪れたが、労働者にとって仕事が全くなくなったわけではない。例えば、研究開発がAI化されたとしても、そのAIに正しいデータを学習させ続けるのは人であり、AIが正しくアウトプットしているかどうかを人が検証し続ける必要がある。つまり、研究開発AIが正しく機能するためには、常に最新であり続けるマーケット情報と、その情報を基に瞬時に自社製品/サービスを追随させるプロセス、さらにそのプロセスを実行し高め続ける人材の確保が不可欠であるため、AIと人は共存関係であるべきではないか。
また、AIが得意とする領域をAIに任せていく分だけ、研究開発者はより付加価値の高い領域(例えば複雑性が高い領域や、新規性が高い領域)にシフトしていくことで、自社製品/サービスのさらなる広がりが期待できる。AI活用という機会が、もしかしたらある意味聖域化されている従前のやり方を変えていくチャンスともなり得るのではないか。
テクノロジーは日進月歩に進化しており、AIという有能なリソースを最大限活用しない手はない。AIと人が共存する、新たな研究開発の時代が到来している。
次回は、製造業において商品のコンセプトやビジネスプランを具体化し、商品開発の実行判断を実施するプロセスである「商品企画」に焦点を当てて解説する。
朝倉 義裕(あさくら よしひろ) アクセンチュア株式会社 インダストリーX本部 マニュファクチャリングコンサルティング マネジャー
2020年アクセンチュア入社。製造業における新規技術探索や商品開発、SCMの実務と管理の経験に基づくエンジニアリングチェーン/サプライチェーンの知見を基に、医療、エネルギー、通信などの各企業へデジタルトランスフォーメーションやリスキリングをはじめとするマネジメントコンサルティングを提供している。
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