日本の製造業DXはなぜ進まないのか、成功の鍵は失敗から学ぶこと製造業DXプロセス別解説(1)(1/2 ページ)

製造業のバリューチェーンを10のプロセスに分け、DXを進める上で起こりがちな課題と解決へのアプローチを紹介する本連載。第1回は、序論として日本の製造業の現在を振り返り、DXに向けた未来への道筋を提言する。

» 2023年07月24日 07時00分 公開

 日本の製造業のプレゼンス低下は以前から指摘されてきた。近年は、デジタルやデータの活用という観点で、海外勢からの遅れも目立つ。製造業DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれているものの、どこから着手したらよいか戸惑う経営層も多いと感じている。しかし、現状の延長線上に将来の成長があると考える向きは少数派ではないか。

 そこで本連載では、製造を10のプロセスに分け、各プロセスで起こりがちな課題と解決へのアプローチを紹介していく。連載の第1回である本稿では、序論として日本の製造業の現在を振り返り、未来への道筋を提言したい。

日本の製造業はDXで再加速する

 製造業は長らく日本経済の柱といわれてきており、現在もGDPの約2割を占める。ただ、過去数十年を振り返れば、他の先進国/新興国の製造業が貪欲なまでの成長を続ける中で、グローバル市場における日本の製造業の存在感は相対的に低下している。

 このような現状に、歯がゆい思いを抱えている関係者は多いはずだ。コンサルタントとして製造業を支援する立場にある私自身もその一人だ。アクセンチュアの執筆陣による本連載「製造業DXプロセス別解説」の背景には、そのような思いがある。同時に、日本の製造業はDXによって再び力強く成長するとの確信もある。

 まず現状認識として、成功事例は徐々に増えつつあるとはいえ、海外に比べると日本の製造業DXは遅れが目立つ。例えば、経営者が「DXをやろう」と指示しても、実際の取り組みは各現場任せになっていたり、その現場が予算や権限の制約を前に苦労していたりといったことが頻繁に起こっている。縦割り組織の課題は以前から指摘されてきたが、狭いサイロの中で最適化を図ろうとしても効果は限定的だ。

 DXが進まない原因はさまざまである。縦割りという課題は組織風土や文化と密接に関わっているし、従来の業務は変えづらいという意識もあるだろう。また、デジタル人材の不足、データそのものの不足もしばしば指摘される。こうした難問を突破する上で、経営層のビジョンや覚悟が十分ではないといった声もよく耳にする。

 いずれにしても、DXは全社的な取り組みであることをあらためて確認する必要があるだろう。アクセンチュアの考える新しい変革プロセスは「大きく考える」からスタートし、「小さく始めて」「スピーディーに拡張し」、再び「大きく考える」というものだ(図1)。このサイクルを高速で繰り返しながら、収益の最大化を目指す。

図1 アクセンチュアの考える新しい変革プロセス 図1 アクセンチュアの考える新しい変革プロセス[クリックで拡大] 出所:アクセンチュア

製造業のサービス化とマスカスタマイゼーション

 DXはビジネスモデルの変革であり、実現には組織を跨いだ取り組みが欠かせない。

 例えば、「モノからコトへ」、あるいはサービス化という世界的な潮流がある。日本では今も、「いいものを安く、早く」というモノづくり意識が強いように見えるが、海外に目を転じるとモノ売りからサプスクリプションモデルに移行している。

 産業機械を例にとると、1台数千万円、数億円の装置を売るのではなく、メーカーが装置を所有したまま月額料金で提供するというモデルだ。自社の監視センターで日々の稼働状況を詳細に把握した上で、トラブルがあれば即座に駆け付ける、あるいは顧客に対して装置の効率的、効果的な操作方法を提案する。こうして収集されたデータは、次の新製品開発にも生かされる。

 サブスクリプションモデルは、データ収集戦略の一環というとらえ方もできる。今や、最新の知見やテクノロジーを享受できる環境が世界中に広がる時代だ。他社との差別化はますます難しくなるが、顧客などから集めたデータは差別化要素として残り続ける。そのデータをいかに収集/分析し、活用するか――。それは、製造業の将来を左右する大きなテーマである。

 ただ、明確なデータ収集戦略を打ち出している日本の製造業は必ずしも多いとはいえない。消費財メーカーなどデータを収集するタッチポイントが多い企業において、代理店とのパートナーシップ強化やオンラインでの販売チャネルの拡充などがそれぞれの担当部署主導で行われ、全社でデータが活用しきれないというケースも聞く。部門横断の一貫したデータ活用戦略が必要だ。

 製造業におけるビジネスモデル変革のもう1つの動きは、マスカスタマイゼーションだろう。消費者との接点に注目すれば、それはデータに基づくパーソナライズともいえる。例えば、顧客の足型データをもとに、ぴったりフィットする靴を作るという具合だ。しかし、製造の視点で見ると、マスカスタマイゼーションをマスプロダクションと遜色のないコストで行う必要があり、それは非常に大きなチャレンジになる。

 最も望ましいのは、ハードウェアは同じものを使い、ソフトウェアによってパーソナライズを実現するマスカスタマイゼーションだろう。「iPhone」やテスラのEV(電気自動車)は代表的な存在だ。製造業から見れば、世界市場に向けたマスプロダクションでありながら効率的にコストダウンでき、個々のユーザーにとっては、製品を使えば使うほどデータやアプリが自分専用の度合いを強め「これは自分だけのもの」と愛着を持てるようになる。ただし、この取り組みを大きな成果につなげている日本の製造業は少ない。このような現状の背景にも、データ収集/活用戦略の曖昧さがあるように見える。

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