テクノロジーは急速な発展を続けている。例えば、設計や製造に関わる3Dデータを扱う上で、今ではコンピュータの力不足を心配する必要はほとんどない。そのために必要な投資額も低下している。IoT(モノのインターネット)技術の活用という観点では、音やにおいを見極める能力も含まれるモノづくりの匠の技に対して、今ではその匠に匹敵するほど高精度のセンシングが実現しつつある。
こうしたテクノロジーの果実を十分に取り込めない製造業は、今後、厳しい状況に追い込まれるだろう。逆に、DXにチャレンジする製造業は、たとえ失敗したとしても、その経験から学ぶことさえできれば新たな成長の機会を見いだすことができるはずだ。
ミスや失敗を責めるのではなく、重要なのはそこから何を学ぶか。繰り返しになるが、それは企業風土や文化の問題だ(図2)。その他にも、自前主義や時間のかかる意思決定プロセス、変化を恐れるマインドなど、日本の製造業がDX組織に変革するためには幅広い課題を克服する必要があるだろう。
それは、長く困難な道のりかもしれない。しかし、業界や企業による濃淡はあっても、これからの時代において、あらゆる製造業が解決に向けて取り組むべき課題だと思う。
今も、品質という日本の製造業の強みは健在だ。ときに「過剰品質」といわれることもあるものの、「なぜこの製品が売れているのか」を分析すれば、データという根拠に基づいて過剰な部分だけを削ぎ落とすこともできる。そして、それは健全な収益増をもたらすはずである。
日本の製造業が培った強みとデジタルの力を掛け算すれば、将来には大きなチャンスが広がっている。先にDXの遅れに言及したが、それは効率化や変革の余地が大きいことも意味している。
私が所属するアクセンチュアのインダストリーXという組織では、製造業におけるデータ活用の在り方を問い直し、製造業のDX推進を支援している。その中間報告ともいえる本連載では、インダストリーXの各領域の専門家が、製造業DXに向けたアプローチについて、エンジニアリングチェーンやサプライチェーン、デマンドチェーン、サービスチェーンなどが関わる製造業のバリューチェーンを10のプロセスに分けて解説していく(図3)。
次回以降の各論、そして連載全体を通じて日本の製造業にエールを送りつつ、よりよい未来のための提言をしていきたい。
河野 真一郎(こうの しんいちろう) アクセンチュア株式会社 インダストリーX本部 エンジニアリング&マニュファクチャリング 日本統括マネジング・ディレクター
1993年アクセンチュア入社後、日本自動車産業統括、アジア・パシフィック地域 自動車・産業機械・物流グループ統括を経て2021年より現職。2017年『インダストリーX.0 製造業の「デジタル価値」実現戦略』日本語版の監訳/序文を執筆。2019年『ものづくり「超」革命』日本語版の監訳/日本語章を執筆。Hannover Messe、東京モーターショーなど講演は50回以上を数える。
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