製造業のバリューチェーンを10のプロセスに分け、DXを進める上で起こりがちな課題と解決へのアプローチを紹介する本連載。第2回は、マテリアルズインフォマティクスを中心にエンジニアリングチェーンの最上流のプロセスとなる「研究開発」を取り上げる。
前回は序章として日本の製造業が抱える課題と変革への大きな道筋を描いた。今回からは製造業の各プロセスに焦点を当て、DX(デジタルトランスフォーメーション)へのアプローチを解説していく。まずはエンジニアリングチェーンの最上流のプロセスとなる「研究開発」から触れていきたい。
昨今、消費者の価値観やマーケットニーズはますます多様化しており、各企業は自社製品やサービスを追随させるべく、研究開発への投資に積極的である。一方で、期待以上の成果が得られているケースは少ないのではないか。研究開発スピードを加速するための1つの視点として、マテリアルズインフォマティクス(MI)に代表されるデータ活用が示す将来の可能性について提言したい。
テクノロジーの進化は目覚ましい。一人一人が、ひと昔前のスーパーコンピュータをしのぐ性能持つ機器を当然のように使いこなしている。世界で起こったイベント、ニュースをリアルタイムに入手し、互いに共感、反響しながら、個々の価値観はますます多様化し続けている。
企業における働き方も、特に世界的なCOVID-19パンデミックを境に大きく変化した。従業員の間ではおのおのの情報端末を介してデジタルでつながるワークスタイルが一気に広まり、物理的な移動を伴わない分、作業効率も改善したように思える。しかし、ここ数年の有効求人倍率の上昇傾向や、転職業界のマーケットが拡大傾向であることを鑑みると、各企業における人材不足感はむしろ拡大傾向のようだ。今後、労働人口の減少が見込まれる日本において、企業が外部に労働力を求めることは難しくなっていくのかもしれない。
特に研究開発は、自社製品/サービスに付加価値を与え続けていく存在として、マーケットからの期待は大きい。各企業は、多様化する顧客ニーズに自社製品/サービスをいち早く連動させるため、競って研究開発に投資を行っているものの、例えば営業利益率が大きく増加したケースは少なく、期待以上の成果は得られていないように見受けられる。
多くの企業における研究開発は、今ある自社製品/サービスを拡充するために行われているが、ベースにあるのは、これまで築き上げてきたノウハウと顧客やステークホルダからの有用なフィードバックである。しかし、それらの多くは、歴代の有能な従業員の経験や勘として継承されていることが多いため、マンパワー投入などによる研究開発スピードの加速に限界を感じている研究開発者は多いのではないか。この場合、マーケットニーズの変遷に応えようとする経営者と、研究開発者とのギャップは大きくなる一方である。
歴代の有能な従業員の経験や勘を伝承することは難しく、伝承される研究開発者の価値観も多様化しているため企業に在籍し続けるとも限らない。そのような環境で、自社のノウハウやナレッジを継承、蓄積しつつ、研究開発スピードを加速するための答えをどこに求めるべきだろうか? 筆者は、答えの1つにAI(人工知能)があると考えている。
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