円筒形の構造物をハンマリング加振して実験モーダル解析した結果を動画3、動画4に示します。
振動形状がよく分かります。しかし、市販のモーダル解析ソフトでは動画5のような振動形状も表示します。
「えっ!? これ、インパルスハンマーでたたいたところだけ変形してるじゃん」というような振動形状です。これだけではなく、モーダル解析ソフトは動画3/動画4と動画5の中間のような振動形状をたくさん出力します。どこまでを採用し、どこまでを破棄するかは人間が判断しなければなりません。特徴がはっきりとしない振動形状を出力する理由の1つを紹介します。
図17に、カーブフィットのためにサンプリングした点とカーブフィット結果を示します。
モーダル解析ソフトでは、カーブフィットする範囲を人間が指定する必要があります。図17左図の測定点1のデータを見て青色の領域のデータ(オレンジ色の●)を使ってカーブフィットすることにしました。その結果を破線グラフで示します。
モーダル解析ソフトは、測定点2のデータのカーブフィットでは先ほど指定した範囲のデータ(青色の領域のデータ)が使われます。同じであるはずの固有振動数が測定点によって異なる値として観測されることはよくあります。ソフトウェアはこのような事情を考えずにプログラミングされた計算式に従って伝達関数の値と位相角を計算します。ここにはピークに関する情報が含まれていないので正しいカーブフィットができず、正しい伝達関数の値と位相角を求めることはできません。
この結果、怪しい伝達関数値と位相角が使われた特徴がはっきりしない振動形状が表示されてしまいます。ソフトウェアを使わずにカーブフィット作業を人間が行うと、このようなデータを排除または修正できるので、特徴がはっきりしない振動形状をある程度省けます。
インパルスハンマー加振によるモーダル解析では、図6の青色の線で示したように加振力には全て周波数成分が含まれているので、全て共振点の振動形状が得られます。しかし、実際に振動問題となっている振動形状が動画3のものか動画4のものかは分からないので、対策立案が困難になります。
以上のことから、筆者はインパルスハンマー加振によるモーダル解析をあまりオススメしていません。機械を通電して実稼働状態のモーダル解析を実施することを推奨します。
伝達関数に変換する前の振動データから、どの周波数の振動が主原因になるかを調べ、その周波数のモーダル解析をすればよく、その形状から対策が立案できます。筆者はインパルスハンマーによる力信号の代わりに、実稼働状態の電流値を電圧値に変換した信号をよく使っていました。電流プローブを使えば電源回路に非接触で計測できますし、サーボモーターならマニュアルをよく読めば、サーボパックから電流値に相当する電圧信号が得られます。もしくは、最もよく振れている点にもう1つ加速度ピックアップを付けて、それを入力信号にすることができます。
インパルスハンマー加振によるモーダル解析をするのなら、(1)モーダルパラメーターを求めて、(2)モード重ね合せ法を使って、(3)いろいろな外力による振動応答を求める(参考文献[1])といったことをしなければ、有益な情報は得られないように思います。
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