生理学研究所は、皮膚の表皮細胞に存在するTRPV3チャネルが温度感知に関係していることを明らかにした。これまで意見が分かれていた議論を終結させる研究成果であり、人の温度感覚を制御できる方法の開発につながることが期待される。
生理学研究所は2023年7月20日、皮膚の表皮細胞が温度感知に関係していることを明らかにしたと発表した。佐賀大学、慶應義塾大学らとの共同研究による成果だ。
温度感受性TRP(トリップ)チャネルと呼ばれる一群のイオンチャネルのうち、43℃以上で活性化するTRPV1や29℃以下で活性化するTRPM8は感覚神経に存在し、外界の温度が信号として脳に送られた際、熱い、冷たいなどの温度感覚が生じる。
一方、32〜39℃程度で活性化するTRPV3の多くは皮膚の表皮細胞に存在し、感覚神経にはほとんど存在していない。
TRPV3の機能を詳細に調べるため、共同研究グループはTRPV3と同様に表皮細胞に存在する機能未知のタンパク質TMEM79をTRPV3と培養細胞で共発現させた。そこでTRPV3を活性化したときの電流を調べると、TRPV3の電流が小さくなり、TMEM79がTRPV3による電流に影響を与えることが示された。
続いて、TMEM79を欠損させたマウスの温度嗜好性を観察すると、野生型マウスと比べてより温かい温度を好むことが分かった。このことから、TMEM79欠損によりTRPV3電流の大きさが変化してマウスの温度嗜好性に影響を与えることが明らかとなった。
実際に、TMEM79欠損マウスの尾の表皮細胞で、TRPV3の電流が大きくなっていることを確認している。
通常、TRPV3は細胞膜に発現する。一方、TMEM79と共発現させると、TRPV3は細胞膜から細胞内に移動するため、細胞膜上のTRPV3が減少し、TRPV3電流が低下したと考えられる。
また、TMEM79の存在下では、細胞内に取り込まれたTRPV3がリソゾームで分解されていることや、細胞膜上にTMEM79とTRPV3が結合して存在することも分かった。
これらの結果から、TMEM79とTRPV3は表皮細胞上で結合し、細胞膜上のTRPV3量を制御することで、皮膚の温度感受性を制御していることが明らかとなった。
これまで、表皮細胞の情報が脳まで伝わり、温度感覚を生むかについては結論が出ていなかった。今回の結果から、皮膚の表皮細胞が温度感知に関与していることが確認された。今後、TRPV3やTMEM79の機能を用いて、人の温度感覚を制御できる方法の開発につながることが期待される。
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