バーチャルツインが日本の製造業、新時代のモノづくりを加速する3DEXPERIENCE Conference Japan 2023(3/3 ページ)

» 2023年06月21日 07時00分 公開
[八木沢篤MONOist]
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製造業におけるIndustrial Metaverseのインパクト

 基調講演の最後に登壇したのは、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ プリンシパル/イノベーションストラテジストの小宮昌人氏だ。同氏は「製造業におけるIndustrial Metaverseのインパクト 〜メタバースとデジタルツインの融合・補完〜」をテーマに、“メタ産業革命”の基本的な考えや動向、可能性などについて解説した。

 メタ産業革命とは、現実世界の双子をデジタルで再現し、可視化やシミュレーション、最適化などが行える「デジタルツイン」と、アバターなどを介して3次元世界で相互交流できる「メタバース」との融合および補完により実現する変革を指す。

JICベンチャー・グロース・インベストメンツ プリンシパル/イノベーションストラテジストの小宮昌人氏 JICベンチャー・グロース・インベストメンツ プリンシパル/イノベーションストラテジストの小宮昌人氏[クリックで拡大]

 その具体的な変革のイメージとして、小宮氏は「これまでのモノづくりでは、設計情報は紙図面や2Dデータが主流で、経験がものをいう暗黙知の世界だった。業務上のスキルやノウハウなども先輩の背中を見て覚えることが当たり前で、何かを試すにしても実際に現場で時間とコストをかけてモノを作り、改善していくといったアプローチがとられていた。これに対し、メタ産業革命の時代では、設計情報は3Dでデジタル化され、経験が乏しくても3次元空間上で直感的に理解を深め、経験を積むことが可能となる。また、実際にプロトタイプなどを作ることなく、デジタル空間で事前検討し、シミュレーションを実施し、改善を繰り返し行った上で、現実世界へフィードバックできる」と説明する。

メタ産業革命について メタ産業革命について[クリックで拡大] 出所:JICベンチャー・グロース・インベストメンツ

 さらに、小宮氏は「産業や都市の領域では既に3D化、3D活用が進みつつあるため、デジタルツインとのシナジー、デジタルツインとの掛け算でどのような変革につなげられるかを捉えることが重要だ」と述べる。例えば、紙図面や2Dが主流の現場で設計内容の評価を行う場合、図面を読み解く力(属人的な知識や経験)が問われ、ミスや齟齬(そご)が生じてしまう可能性がある。これに対し、3Dを起点とするデジタルツインによるオペレーションでは、デジタル上で構想/設計し、デジタル上で検証するというサイクルを回すことができ、精度を高めた状態で現場や現物に落とし込むことができる。また、現実世界からセンサー情報や現場データを取得し、デジタル上での検証に活用することで、より良い製品開発にもつなげられる。

 デジタルツインと3D空間での相互交流を可能にするメタバースが融合することで実現するメタ産業革命の方向性として、「社会や都市へのマクロ化」と「人へのミクロ化」の2つが挙げられるという。

デジタルツイン×メタバースによるマクロとミクロの方向性について デジタルツイン×メタバースによるマクロとミクロの方向性について[クリックで拡大] 出所:JICベンチャー・グロース・インベストメンツ

 社会や都市へのマクロ化では、Dream Onが空飛ぶクルマのPoC(概念実証)をデジタルツイン×メタバースで再現されたバーチャル都市空間で実施し、社会受容性の拡大やコンポーネント開発、都市づくりの検討などに役立てている事例を紹介。「新技術開発の世界では『モノがないとイメージが湧かずニーズや要件が出てこない』という考えと、『ニーズや要件が生まれないとモノを開発できない』という考えが対立する鶏卵問題(鶏が先か、卵が先か)に直面することがあるが、デジタルツイン×メタバースによるバーチャルでのPoCや社会実験によって、この問題を打破することができる」と小宮氏は説明する。

 一方、人へのミクロ化について、小宮氏はメタバースの登場により形式化できる暗黙知の範囲が広がってきていることに触れ、人の動作や気付き、判断などをバーチャルで追体験し、トレーニングに役立てたり、オペレーションの見直しを図ったり、ユーザビリティを改善したりといった活用につながっているという。

 さらに、小宮氏は、これまで完全自動化が難しく人の判断が介在するようなオペレーションに対して、デジタルツイン×メタバースがインタフェースとなり、遠隔操作でロボットを動かすと同時に、その動作を学習させて最終的に自動化につなげるというメタ産業革命を象徴する新たなアプローチについても紹介した。

 メタ産業革命におけるキープレイヤーとして、小宮氏は「Unity」や「Unreal Engine」に代表されるゲームエンジンの存在を挙げるとともに、デジタルツイン×メタバースで欠かせない3D情報を取り扱う“産業デジタルツインプラットフォーマー”の重要性を説き、「3D情報を提供するプレイヤーがメタ産業革命における鍵となる。ダッソー・システムズはその変革を支える中心的な存在といえるだろう」(小宮氏)と強調する。

メタ産業革命におけるキープレイヤー メタ産業革命におけるキープレイヤー[クリックで拡大] 出所:JICベンチャー・グロース・インベストメンツ

 最後に、小宮氏は「デジタルツイン×メタバースと、ロボットの組み合わせによって、多くのことが自動化、半自動化×制御できるようになる。そのとき重要なのが技術ではなく『どんな社会を作りたいのか』『何を実現したいのか』といったビジョンだ。そして、これまでは試行するにもコストや時間がかかり、失敗しない人をよしとする(失敗しない人が勝つ)風潮があったが、メタ産業革命時代には試行コストも失敗のハードルも下がり、誰もがチャレンジできる世界に変わる。つまり、“いかに早く失敗し、学ぶかが重要”となってくる。また、DX推進に力を入れてきたこれまではクラウドに代表されるデジタルレイヤーに統制されてきたが、これからは現場/オペレーションがデジタルツイン×メタバースにフィードバックされる時代になる。これは、現場/オペレーションに強い日本企業の存在価値を世界に向けて発信できるチャンスだ」と述べ、講演を締めくくった。

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