サステナブルなモノづくりの実現

サステナブル設計の支援に注力するPTC、パートナーとも連携拡大で体制強化LiveWorx 2023(2/2 ページ)

» 2023年05月23日 11時30分 公開
[池谷翼MONOist]
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ServiceMaxを買収した理由

 へプルマン氏は、PTCが2022年に買収したServiceMaxについても言及した。PTCはWindchillをデジタル空間における製品データの記録システム、ServiceMaxを物理空間における製品インスタンスやシリアルナンバーの追跡/管理システムと位置付ける。デジタル、物理空間における製品データを両者間のクローズドループの中で共有し、回していくことで、エンジニアリングや製造、フィールドサービスなどの業務分野の効率性をより高め、大きな成果を生めるようになるとする。

 ServiceMaxを買収した理由についてへプルマン氏は、「大きく分けて2つ理由がある。1つは顧客にとってサービス戦略が、収益/利益拡大の原動力としていかに重要になるかを知っているからだ。製品は(アフターサービスも含めた)ライフサイクル全体を通じて、売り切りに比べて10倍以上の収益を生み出せる。もう1つが、(ServiceMaxを買収したことで)当社がモデルベースのクローズドループのデジタルスレッドを実現できるようになったことだ」と語った。

PTCの考えるクローズドループ 出所:PTC

アンシスとアプリオリとのパートナーシップ強化

 さらに、へプルマン氏はサステナビリティを意識した設計の重要性について、「製品のライフサイクルを通じて排出されるカーボンフットプリントの80%は設計エンジニアリングの段階で決まり、その後の製品開発プロセスで調整していくことは容易ではない。こうした設計は、製品の材料選択、サプライヤーとの協調、製造/運用プロセス全体に関わる問題だ」と訴える。

 既にPTCのソリューションを組み合わせてサステナビリティ向上に向けた取り組みを進める企業がいくつかある。米国のエンジンメーカーであるカミンズ(Cummins)はその1社だ。カミンズは自社のサステナブル目標に従い、強度や耐久性を犠牲にしない形でのエンジン軽量化などに取り組んでいる。ここで活用しているのが、Creoのジェネレーティブデザインの機能だ。既存の製品より少ない材料でのパーツモデリングを実現し、サステナビリティに貢献している。また、風力発電機メーカーであるデンマークのべスタス(Vestas)のように、CreoとWindchillを活用して、複合材設計などに取り組む事例もある。

 さらに、サステナビリティ分野における企業の設計力支援を念頭に、PTCはアンシス(Ansys)とアプリオリ(aPriori)とのパートナーシップを拡大すると発表した。アプリオリとの連携拡大によって、製品のコストや製造、持続可能性に関する評価機能をCreoとWindchillで活用できるようになる予定だという。これによってエンジニアは、設計に関連するカーボンフットプリントとコストの変化を理解しやすくなる。

 PTCでは、物理的な取り組みから脱却する「非物質化(dematerialized)」に加えて、「エネルギー効率の向上」「廃棄物削減」の3つをサステナビリティの主要テーマと捉えて、これらに関連した設計、製造、サービス分野での企業活動を支援するツール、ソリューション提供を目指すとしている。

 またへプルマン氏は、企業が責任をもって順守すべき規則やコンプライアンスは、環境などサステナビリティに関連するテーマにとどまらず、多く存在するとも指摘した。

 「現実世界では、企業が意識すべき規則やコンプライアンスなどの規範は多岐にわたる。コンプライアンスに適合した製品を作りたければ、デジタルの世界でやるべきことを変える必要がある。まずは、製品要件を形式化し、設計変更のたびにその要件への関連付けを行い、システムが本来の機能を果たしていると検証するテストケースへと転送しなければならない。そして、現場からのフィードバックが正しく処理されていることを示す必要がある。このため、PLMやALMなど当社のソリューションを活用しつつ、コンプライアンスに準拠したプロセスづくりを進める自動車、医療機器、製薬、防衛業界などの企業が現れている」(へプルマン氏)

複数人でコラボレーション可能な「Creo+」

 基調講演では、Creoの最新バージョンである「Creo 10」とSaaS(Software as a Service)版「Creo+」のリリースも発表された。

 へプルマン氏はCreo+について、「最大の特徴は複数ユーザーによるリアルタイムでのコラボレーションを可能にしたことにある」と説明した。例えば製品部品を設計する場合、Creo+上に表示された設計プロセスのツリーを確認することで、他のエンジニアの作業箇所やプロセスを確認できる。自身が作業する場合はツリーを分岐させることで、他のエンジニアによる上書きの編集を防げる。最終的に、分岐したツリーは選択的に結合して元に戻すことが可能だ。また、Creo 10では複合材設計が可能となっており、アンシスのシミュレーション技術が取り入れられている。

Creo+のデモの様子[クリックして拡大] 出所:PTC

 近年、PTCはSaaS型ソリューションのポートフォリオ拡充に注力している。へプルマン氏は「現在、CADやPLMソフトウェアの大半はオンプレミスで動作しているが、状況は変わりつつある。変化のスピードは劇的に加速している。ビジネスを変革して、最も簡単で、最も速く、最も効率的な方法で戦略を実現したいのであれば、最終的にはPTCのテクノロジーポートフォリオをSaaSで提供することが期待されるだろう。2019年にはOnshapeを、その1年後にはArenaも買収した。PTCは最高の人材と、業界で最も実績のある最高のSaaSテクノロジーを活用して、競合他社に先駆け、先手を打っている」と語った。

(取材協力:PTC)

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