これまで第2、第3の壁を乗り越える方法を解説したが、そもそも事業に対する競争力が競合他社に比べて著しく低い場合や、営業体制が整っていない場合もある。これらがボトルネックとなっていると、マーケティング面だけの努力では解決できないことが多い。
こういった場合は、営業/事業体制をアップデートすることを検討してほしい。ここではWebマーケティングの活動と並行し、営業/事業体制のアップデートに成功した企業の事例をいくつか紹介する。
共栄精機は東京都足立区で精密板金加工業を行っており、10年以上前からWebマーケティングに取り組んでいる。共栄精機 社長の小山仁氏は、長年Webマーケティングを実践する中で、「ネット上で見積もり依頼する顧客にとっての一番のニーズは、見積もり回答が早いこと」だと考え、依頼から1時間以内に見積もり回答を可能にする体制を構築した。その結果、多くの新規顧客獲得に成功している。自社の強みがないと考える製造業者は、見積もりの回答スピードを上げる努力を続けるだけでも十分な強みとなることを知ってほしい。
鋼材販売業を営む富士産業 常務の杉本秀樹氏は、既存事業である鋼材販売は成長性が見込めないため、金属加工業への進出を検討した。本業の既存顧客とバッティングしないよう、他社が仕事を受けたがらない、一般消費者やデザイナーを顧客ターゲットに設定。ターゲット顧客のニーズに応えるため、独自の協力工場ネットワーク構築を目指し、ガラスや皮革、樹脂など幅広い業種の協力工場70社ほどを開拓した。この活動の結果、ホテルやブティック、お寺、設計事務所、デザイン事務所などさまざまな業種の顧客の獲得に成功した。
筐体板金製作を行っている星製作所 社長の星肇氏は、「板金ケース.com」というWebサイトを新設し新規顧客開拓を実施することで、既存の取引先とは異なるシステム系企業の新規顧客開拓に成功した。その中で顧客の多くが筐体設計関連のニーズを有していることが判明。徐々に設計業務も内製化することで、顧客のニーズに深く応えられるように事業を進化させた。その結果、取引業種がさらに広がり、モノづくりベンチャー企業など、今後の大きな成長が期待される顧客との取引獲得につながった。
「Webマーケティングの受注率が低い」と言う問題を1つ取ってみても、その要因は複雑に絡み合っており、一様に解決する方法を語るのは難しい。まずは現在抱えている問題がマーケティングによって解決できるのか、それとも営業/事業内容をアップデートさせなければ乗り越えられないのかをきちんと見定めた上で、適切な対応をとってほしい。
⇒記事のご感想はこちらから
⇒本連載の目次はこちら
⇒製造マネジメントフォーラム過去連載一覧
徳山正康(とくやま まさやす)
テクノポート株式会社 代表取締役
製造業専門のWebマーケティング事業と技術ライティング事業を手掛けるテクノポートの代表を務める。「技術マーケティングで日本の製造業に追い風を」を経営理念に、これまでに数名の町工場から一部上場のメーカーまで、累計1000社を超える製造業を支援し、数多くの企業の経営革新を実現。
グロービス経営大学院(MBA)卒業、(社)日本ファミリービジネスアドバイザー協会 フェロー、(社)Reboot 理事、(社)Glocal Solutions Japan 認定専門家。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.