産業技術総合研究所は、蓄熱と放熱を外力で制御できる蓄熱材料の作製手法を開発した。吸熱と放熱の温度差が20℃以上となり、この温度間で蓄熱を維持できる。蓄えた熱は、力を加えることで、必要な時に利用が可能だ。
産業技術総合研究所は2023年3月8日、蓄熱と放熱を外力で制御できる蓄熱材料の作製手法を開発したと発表した。同手法で開発したTiNi系マルテンサイト合金は、吸熱と放熱の温度差が20℃以上となり、この温度間で蓄熱を維持できる。蓄えた熱は、環境温度にかかわらず、力を加えることで必要な時に使える。
従来の蓄熱材料は、水と氷のような液体と固体の相変化を利用してきた。こうした相変化材料は、吸放熱の温度差が小さく、高温で蓄熱してもすぐ放出してしまい、利用したい低温まで保持することが困難だった。
新たに開発したTiNi系マルテンサイト合金は、昇温した金属の結晶構造が固体のまま変化するマルテンサイト変態を利用。TiNi系合金のマルテンサイト変態は、温度だけではなく、人間の力程度の応力によっても発生する。
直径1.5mmの合金線を用いた実験では、合金線の吸熱温度と発熱温度に変化が起き、その温度差も大きくなることが確かめられた。この合金線は、断面減少率が35%以上になるまで室温で圧延した後、400〜600℃の温度で1時間加熱し、残留応力を軽減させている。
低温相へ変態する際の熱量は、どの試料も20〜24J/gとなり、低温相への変態開始温度を20〜45℃に調整することで、必要な蓄熱量を得られることが分かった。
また、60℃程度まで昇温して蓄熱した合金は、13℃の環境下でも蓄熱を維持し続け、120N(ニュートン)の荷重により放熱し、13℃から22℃まで上昇した。このことから、材料温度が20℃以上低下した低温環境でも、ためた熱は維持され、小さい力で効率的に取り出せることを実証した。
例えば電気自動車(EV)では、停止状態から電池始動する際に、熱を小さい力で放出して供給可能になる。今後は、目的に合わせた動作温度調整に対応するため、合金設計や加工熱処理の最適化を進めるとしている。
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