これまでの連載で述べてきたように、サステナブルプランニングで中核となる情報がGHG排出量だ。1個や1kgなど製品の生産/販売単位を原単位とする。ここではそれらの情報収集とその計算アプローチを説明する。
最初に調達や生産、販売のサプライチェーンの整理、そして各拠点で有する生産物に必要な素材/部品や設備、工程や手順などの情報の収集、整理を行う。BOM(部品表)やBOP(工程表)の情報を整理することで、仕入れ先からの素材/部品調達、拠点や設備などの社内リソース、各種プロセスを経由して製品が生産、販売されるまでのサプライチェーン全体を可視化できるようになる。BOMやBOP情報の整備状況は、収集可能な情報の粒度に影響を与える。
なお、今回のサステナブルプランニングの基本範囲は第1回でも述べた「Cradle to Gate」、つまり自社サプライチェーンと社外上流(Scope3の一部まで)として想定する。
次に検討すべきは、各排出要素の計算方法だ。排出量計算で考えるべき1つ目の要素は、排出量算出のソースデータ(1次データ or 2次データ)だ。
経済産業省の「サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けたカーボンフットプリントの算定・検証等に関する検討会」の報告では原則として、1次データの利用を推進するとしている。
1次データの利用は排出量の算出精度向上に寄与する。メリットはそれだけではない。2次データでは企業のGHG排出量削減努力は反映されないが、1次データを取得できれば、仕入れ先や自社での削減努力が排出原単位情報に反映できる。また、仕入れ先に主要な素材/部品当たりの排出量を申告してもらう仕組みにすれば、サプライヤー間で品質、コストとは異なる「カーボン」という新たな観点での競争が生じ得る。その結果、サプライヤー同士が排出量の削減に積極的に取り組むようになり、自社だけでなくサプライチェーン全体のさらなるGHG排出量削減を促進することが期待される。
2つ目の要素は排出量の算定を製品直課で行うか配賦で行うかだ。取得できる排出量情報が特定の製品にひも付けられる場合、製品1個当たりのGHG排出量に直接組み込みが可能(製品直課)なため、生産や販売活動のモデルミックス(製品の組み合わせ)に関係なく排出量を一定の精度で算定できる。主に生産で使われるScope3の素材や部品などが直課可能な排出量要素だ。
他方、複数製品共有でGHGを排出する生産設備(Scope1、2)や物流(Scope3)は、製品ごとの活動量(生産量や販売量)に応じてGHG排出量の配賦を行う必要がある。配賦時に考慮した実績と将来の活動量が異なる場合、当然、GHG排出量見通しの精度に影響が出る。BOPが整備されていれば、特定の製品や製品群でしか使わない生産設備などが細かく把握できる。だが、どこまで細かく配賦の単位を捉えて計算するかは、BOPの整備状況や排出量情報取得の手間、コストとの兼ね合いで考えるべきだ。
次に、製品1個当たりの排出量を実際に積み上げて試算した上で、算出プロセスの妥当性を確認していく。算出プロセス自体の検証に注力するため、初めから全製品を対象とするのではなく、主要製品をパイロット製品として試算、検証していくことを推奨する。
しかしながら、1製品当たりの妥当性検証は非常に難しい。工場部門のベテランも、品質やコストのような勘所を持つわけではない。算出方法も会計制度のように明確に定められていない。現時点では「業界平均値との比較」や「ソリューション/サービスの利用」という2つの方法が考えられる。後者はGHG排出量管理やLCA(ライフサイクルアセスメント)ソリューション/サービス、機能を利用し、排出量計算プロセスが各プロトコルに準拠していることを評価する手法。
パイロット製品での積み上げ試算とプロセスの妥当性検証後、これを全製品へと展開する。この段階になると、Excel管理では再計算やデータ管理の負荷に耐えづらくなるため、GHG排出量管理やLCAソリューションを活用するのが効果的だ。
事業部や生産拠点など、ある程度まとまった範囲で全製品の排出量計算を行ったあと、今度は総排出量と比較した妥当性検証を行う。一定期間の工場や設備での排出量、買い入れ素材/部品全体での排出量から求められる総量と比較して、妥当性をチェックする。排出量要素の見逃しや配賦の方法など計算プロセスの不備が見つかった場合は、排出量要素の計算を見直し、再度集計、評価を繰り返す。
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