本連載では、企業にとっての新たな命題となった環境経営、すなわちGHG削減に不可欠なGHG排出量計画「サステナブルプランニング」の要点について述べる。第1回はサステナブルプランニングが求められる背景と基本的な紹介を行う。
脱炭素が社会のコンセンサスとなった今日、各企業は顧客、法制度、資金調達などあらゆる面から、自社だけではなくサプライチェーン一貫での温室効果ガス(以下、GHG)排出量のゼロ化を要請されている。そしてそれに伴い、企業のサプライチェーンマネジメント(以下、SCM)の在り方も変容を迫られている。
本連載では、企業にとっての新たな命題となった環境経営、すなわちGHG削減に不可欠なGHG排出量計画「サステナブルプランニング」の要点について述べる。それと共に、GHG排出量管理に関わる企業の現状を踏まえ、このサステナブルプランニングを企業に導入していくための具体的な方法論について、3回にわたり述べていく。
SCMとは主に、需要と供給のギャップに対する戦略、戦術、ならびに具体計画の立案と遂行といえる。しかし、近年この内実が明らかに変わってきている。
これまでは、いかに需要を予測し、部品確保、生産能力の構えを行い、需要の変化にどのように追従するかが重要であり、企業はそのための意思決定プロセス、業務プロセス、データ活用/システム導入に注力してきた。その状況が2010年以降、様変わりした。洪水や地震などの天災、感染症のパンデミックや紛争などによりサプライチェーンが寸断され、どれほど計画に注力しても予定通りモノが生産、供給できないのである。SCM実務に携わっている方は肌身で感じられていると思うが、過去のSCMにおいては有事(イレギュラー)の対応として求められていたものが、現状では常時(レギュラー)求められている状況だ。
この状況は、まさにSCMに生じたパラダイムシフトといえる。従来は「ジャスト・イン・タイム」、つまり、計画、指示通り実行し、顧客に届けるのが当たり前という前提で、いかに効率的かつリーンに(無駄なく)できるかが主なテーマであった。だが、現在は想定外の事象を迅速かつ正確に捉えてアクションに移せるかという、いわば「ジャスト・イン・ケース」が前提となってきている。
サプライチェーンの寸断リスクとなる天災やパンデミックなどは、近年の気候変動が近因、遠因となり得る。この気候変動への地球規模の対応の成否が、社会や経済の最大リスクとしてグローバルで認識されており、パリ協定で示された1.5℃シナリオ(2050年GHG排出量ネットゼロ)の達成が、各国、各企業のコンセンサスとなっている。
他方、GHGの排出量の抑制は企業にとってコスト増(利益減)ともなり得る。このため、各国における炭素税(排出権)の導入や、各国の環境コストの違いを除外し、市場の公平性を期するための国境炭素調整措置などが具体的に検討されている。
また、世界最大の機関投資家であるブラックロックや数百の金融機関から構成されるグローバル機関投資家連合が、環境経営企業への集中投資と化石燃料依存の強い企業からの投資撤退を始めている。さらに、アップルなど強いブランド力を持つ企業は、部品サプライヤーの排出量削減に対しても大きな影響力を持ってきている。
国内の動向を見ると、東京証券取引所は新規上場区分のプライム市場企業に対し、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の枠組みで、各企業における気候変動に対する財務リスクの開示を原則求めるようになった。国内企業は法制度、顧客、資金獲得の観点から対策を避けては通れない状況となっている。
以上の企業を取り巻く社会環境の変化をまとめてみよう。
過去、環境対策に力を入れる企業は"意識が高いエコ企業"という見方をされてきた。しかし、現在では1.5℃目標達成に整合しない企業、事業は、そもそもビジネスや市場に参加することはできなくなりつつある。GHG排出量管理は否応なく、企業における経営管理/事業管理の1つとして加わることになる。
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