次に、ロボットプラットフォームについてみると、外科医によって指令された活動を実行するロボットアームが含まれる。ロボットアームは、遠隔測定データを外科医コンソールとクラウドに転送する。そしてロボットプラットフォームの位置に基づいて、触覚フィードバックが生成され、外科医コンソールに供給される可能性がある。
バイオセンサーについてみると、外科医およびその他の医療専門家が、さまざまなバイオセンサーのデータをリアルタイムで監視する可能性がある。これには、血圧、脳波(EEG)、筋電図(EMG)、体温が含まれる。
ネットワークコンポーネントは、外科医コンソールとロボットプラットフォームを接続したり、クラウドサービスへの接続を提供したりするのに利用される。多くのコンポーネントにわたる接続性は、ユースケースに必要な帯域幅と低レイテンシを提供する5Gセルラーリンク経由で可能になる。
さらに、クラウドサービスについてみると、さまざまな機能を提供するが、実際に提供されるサービスは、ベンダーや個々の製品ラインアップに左右される。クラウドで提供されるサービスには、以下のようなものがある。
ロボットアームからクラウドに転送されるデータには、ロボットアームの動作速度や力の強さが含まれる可能性がある。バイオヘルスデータには、体温、血圧、EEG、熱発生率、呼吸数、EMGが含まれる可能性がある。デジタルツイン構成データには、ロボットアームの位置が含まれ、3D可視化機能を告知する角度や線形位置が含まれる可能性がある。
最後に、電子健康記録(EHR)は、遠隔手術のイベントとリンクする可能性がある。この接続は、EHRベンダークラウドとロボットのSaaSサービスなど、複数のメカニズムを経由する。
院内の閉じた環境にあるスタンドアロン型システムを前提としていたRASは、クラウドとの連携によって、さまざまなメリットを活用できる機会が増える反面、医療機関は、従来なかったリスクに直面し、その低減策や予防策が必要になる。従って、米国向けにクラウド利用型RASシステムを開発/提供する医療機器企業は、FDAへの申請時に相応のインプットを求められることになる。
机上演習(TTX)は、現時点で適用可能なポリシー、計画、手順に基づいたインフォーマルなストレスのない環境下における、台本のあるシナリオについてのファシリテートされたディスカッションである。TTXは、概念的な理解を促進し、長所と短所を特定して、ポリシーや手順における変更に向けた提案を提供するものである。図4は、TTXのフェーズとアウトプットを示している。
そして、演習の設計においては、前述の「IoT-Medical-Cloud」のアウトプットをベースに、以下のような脅威モデルをシナリオに設定している。
なお、医療分野におけるMITRE ATT&CKや脅威モデリングの利用については、FDAを傘下に持つ米国保健福祉省(HHS)が、積極的に支援してきた。例えば、2020年7月23日、HHS傘下の情報セキュリティ室は、「MITRE ATT&CKによる医療/公衆衛生(HPH)セクターのサイバー脅威アクターモデリング」(関連情報、PDF)と題する文書を公開している。
加えて本連載第86回で触れたように、HHSや米国連邦政府傘下の医療施設は、2024会計年度末までのゼロトラストセキュリティ目標達成に向けて、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)施策を展開している。今回紹介したCSAやOWASP、MITREの成果物の先には、当然ながら、境界防御型を越えたゼロトラスト型セキュリティ環境が待ち構えている。これからクラウド型RASシステムの米国市場での上市をめざす医療機器企業は、セキュリティバイデザインの視点から、ゼロトラスト環境をにらんだ研究開発体制を構築しておく必要がある。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所、グロバルヘルスイニシャチブ(GHI)等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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