名古屋大学は、ショウジョウバエのリズムに対する好みが種間で分化していることを発見し、好みの種間差を支える神経基盤を発見した。今回確立した手法は、さまざまな神経細胞の種間比較に応用可能だ。
名古屋大学は2023年1月10日、ショウジョウバエのリズムに対する好みが種間で分化していることを発見し、好みの種間差を支える神経基盤を発見したと発表した。今回確立した手法は、さまざまな神経細胞の種間比較に応用可能だ。
動物は各種に固有な音を用いて、コミュニケーションを成立させている。今回の研究では、キイロショウジョウバエと近縁種のオナジショウジョウバエを用いて、オスがメスに求愛する際に発する音である求愛歌のリズムに着目して研究した。
キイロショウジョウバエとオナジショウジョウバエの求愛歌のリズムは異なり、オナジショウジョウバエの方が遅い。そこで、2種のメスにさまざまなリズムを聞かせたところ、同種の求愛歌のリズムを聞いたときに求愛を最も受け入れ、メスのリズムに対する好みが種間で異なることが示された。
次に、同種の求愛歌を認識する神経回路について、求愛歌を最初に受容するJO神経細胞群と情報を受け取るAMMC-B1神経細胞群に着目し、2種間で比較した。その結果、神経細胞群の形態や神経伝達物質の特徴は種間で類似していた一方で、AMMC-B1神経細胞群のリズムに対する情報処理が種間で異なることが示された。
2種とも、リズムが25ミリ秒間隔までは速い方がよりよく応答し、25ミリ秒以下の速すぎる間隔では応答が抑制された。抑制される度合いは種間で異なり、オナジショウジョウバエの方がより強く抑制された。
そこで、数理モデリングの階層ベイズモデルを用いて、AMMC-B1神経細胞群の神経応答の種間差の情報処理の違いを推測したところ、AMMC-B1神経細胞群の応答を抑制する入力がオナジショウジョウバエで、より強く働いている可能性が示された。この結果から、同種の求愛歌を識別する情報処理の進化は、神経回路における促進と抑制のバランスの変化による可能性が示唆された。
これまで音の高さや低さを認識する仕組みに関する研究は進められていたが、識別に聴覚だけでなく神経回路での情報処理も必要なリズムに関しては研究が進んでいなかった。今回の研究結果は、同種の音のリズムを聞き分ける進化がどのような脳内メカニズムで起こるのかを明らかにしたものだ。
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