ただ、従来のやり方が染みついた中で変革を進めていくことは簡単なことではない。例えば、サプライチェーンでシステム連携を進めようとしても現状では、調達、物流、生産、販売それぞれで別のERPシステムを使っており、各プロセスでの標準化や最適化は進められていても、連携については都度連絡を行うバッチ的処理で行われていた。「リアルタイムの連携はできていなかった」(矢澤氏)。そのため、変化に合わせた迅速な対応は難しい状況があった。また、パートナー(サプライヤー)とのやりとりは、メールや電話が中心で、人手を介さなければ行えない状態となっていた。
そこで、こうしたプロセス間、システム間、そしてパートナーとの間の情報連携を円滑に行うための共通プラットフォームを構築。「Casio Supplychain Collaborative Platform(CSCP)」として、その基盤を通じてあらゆるサプライチェーン情報が統合管理できるようにし、効率化を実現したという。
この統合基盤では、社内の各プロセスのERPから情報を集約するとともにこれらの情報を基に、パートナーとの発注書や注文書のやりとりや納期回答などを行えるようにしている。また、現在は取り組み段階だが、製品設計段階でサプライヤーから関連部品や金型の見積もりを取ったり、注文書や検収情報をもらったりするような領域についても、この基盤上から行えるように現在プロジェクトを進めているという。矢澤氏は「われわれも多くの中小企業を含むパートナーに支えられてモノづくりをしている。パートナーに負担なくこうしたデジタル化が進められるように工夫をしながら進めている」と語っている。
エンジニアリングチェーンでは、開発設計領域と生産領域でそれぞれシステム化は進んでいたが、連携できる形にはなっていなかった。これらを一貫して情報連携が進められるように体制面、システム面での変革を進めた。
まず設計開発領域で、開発プロセスの標準化とCADデータ活用の強化を推進した。CADについては、従来は2系統に分かれていたのを1つに統合した。また、従来は設計領域のみであったのを、資材や生産技術領域でも3Dデータを活用するようにした。これにより、3Dデータを基軸に材料を検証するCAEや製品の組み立て検証、設備設計と検証など、フロントローディング化を進められるようにした。
また、設計部門と生産部門の連携では、従来は個別で分かれていたBOM(部品表)を統合し、グローバルで設計情報から生産情報までの一元管理を実現できるようにした。上流の設計段階で資材部門がBOM情報を活用して取引先まで部品や金型の見積もりを行えるようにした。これをCSCPと連携することでパートナーに問い合わせるまでの流れを一元的に行えるようになる。これらは2023年1月から順次リリースしていくという。
製造業にとって、ここ数年のさまざまな動きは予測できないものが多く、サプライチェーンの担当者はその矢面に立たされる存在となっている。矢澤氏は「VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代だからこそ、その逆の安定性、確実性、単純性、明確性を確保するためにどうするかを考えるべきだ」と訴える。そして「外的変化を前提とした変化に強い現場を作るためにDXを進めるべきだ」(矢澤氏)と強調する。
さらに「変化への対応については従来はサプライチェーン領域のみで捉えられてきた面がある。ただ、半導体を考えても、安定して調達できた時代はそれほど考えなくてもよかったが、調達期間が半年や1年を超えるような状況になると、エンジニアリングチェーンとの緊密な連携が必要になり、経営判断が必要な場面も出てくる。事業そのものと一緒に考えないと解決できない」と矢澤氏は、より幅広い範囲での情報連携の必要性について語る。
その上で有事と平時のどちらでも通用する仕組み作りを進めていく。「サプライチェーンについては、いまだに手作業の領域が多く残されているのでその排除を進め、データ全体をつなぐ。サプライチェーンを一気通貫でデジタル化し、現場での意思決定と行動の迅速化を図る。また、パートナーも含めたデジタル化の在り方を考えていく」と矢澤氏は考えを述べている。
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