新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大があぶり出したのが、パンデミックという想定外の事態に対応できない製造業のサプライチェーンの脆弱性だった。2021年は、製造業に求められているDXの一環となる“攻めのIT”として「しなやかなサプライチェーン」を実現する端緒の年になるかもしれない。
2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大が、製造業の事業展開にさまざまな影響を与えた1年だった。COVID-19の治療や感染対策に求められる医療機器や、サージカルマスク、フェイスシールド、除菌剤といった医療器具の需要が急激に拡大した一方で、従来は当たり前のように行われていた国家間の移動が制限されたことにより航空機や船舶の需要が急激に縮小した。
また、最初にCOVID-19の感染拡大が確認された中国の武漢市がある湖北省などで移動制限が行われたことによって自動車業界を中心に部品供給が滞り、日本国内の工場における生産が停止する事態に陥った。その当時は日本国内でCOVID-19の感染拡大が顕著でなかったため、COVID-19のようなパンデミックがグローバルのサプライチェーンを寸断する事実を強く示した事例となった。
多くの国が都市封鎖を行い、日本も緊急事態宣言が発出したこともあり、ほとんどの製造業は2020年4〜6月期の業績を大幅に落とすこととなった。しかし、2020年夏にはCOVID-19感染拡大の第一波が落ち着き、一部を除いて製造業の業績は急速に回復しつつある。
今回のCOVID-19の感染拡大では、これまで日本ではあまり進んでいないと指摘されてきた企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)に焦点が当たった。経済産業省が2018年9月に『DXレポート 〜ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開〜』を発表したことを受けて、製造業も多くの企業がDXへの取り組みを進めつつあったが、この段階におけるDXとは、主に2025年にサポート期限を迎える「SAP ERP」への対策となるERPをはじめとする基幹系システムの刷新が主眼になっていた※)。
こうして製造業のITシステムの刷新に向けてERPに注目が集まる中で、SCM(サプライチェーンマネジメント)の刷新は後回しになっていた。そんな状況下でCOVID-19の世界的な感染拡大があぶり出したのが、パンデミックという想定外の事態に対応できない製造業のサプライチェーンの脆弱性だった。
日本の製造業は、これまでも東日本大震災、台風や洪水といった災害などに続けて見舞われたこともあり、いわゆるBCP(事業継続計画)の観点で一定水準以上の対策を進めてきたことは確かだ。しかし、今回のCOVID-19は、中国からの部品供給の停止や都市封鎖による工場の稼働停止に代表される供給サイドの影響に加えて、移動制限によって引き起こされた製品需要の急減もしくは急増といった供給サイドの影響が発生するなど、従来のBCPやSCMで容易に対応できるものではなかった。
これらの事象は、製造業がDXを進めるためにはサプライチェーンの課題も解決しなければならないことを気付かせたといえる。実際に、SCM関連のITシステムベンダーやコンサルティングファームには多くの引き合いがあり、需要は大きく拡大しているという。
※)なお、経済産業省は、DXレポートに引き続く「DXレポート2(中間取りまとめ)」を2020年12月28日に発表している。
DXレポート2では、『先般のDXレポートでは「DX=レガシーシステム刷新」など、本質ではない解釈を生んでしまった』などの振り返りを基に、コロナ禍の中では、あらためて基幹系システムにとどまらない「レガシー企業文化からの脱却」が必要になると訴えている。
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