カシオ計算機では、モノづくり全工程の「スマート化構想」により、社内におけるモノづくり力の再強化に取り組む。なぜ「スマート化構想」を推進するのか。どのような取り組みを行っているのか。同プロジェクトを統括するカシオ計算機 執行役員で生産本部長の篠田豊可氏に話を聞いた。
「効率性を重視し、海外でのEMS(電子機器受託生産サービス)に生産の大半をゆだねたことで技術の空洞化が生まれた」――。そう反省を述べるのはカシオ計算機 執行役員で生産本部長の篠田豊可氏である。そのカシオ計算機があらためて山形県東根市の山形カシオをマザー工場と位置付け、「モノづくり力」を自社内で研ぎ澄ます取り組みを進めている。カギになるのは「スマート化」だ。
カシオ計算機では、モノづくり全工程の「スマート化構想」により、社内におけるモノづくり力の再強化に取り組む。なぜ「スマート化構想」を推進するのか。どのような取り組みを行っているのか。同プロジェクトを統括する篠田氏に話を聞いた。
ITmedia産業5メディア総力特集「IoTがもたらす製造業の革新」のメイン企画として本連載「製造業×IoT キーマンインタビュー」を実施しています。キーマンたちがどのようにIoTを捉え、どのような取り組みを進めているかを示すことで、共通項や違いを示し、製造業への指針をあぶり出します。
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MONOist カシオ計算機では、なぜ今「スマート化構想」を推進しているのでしょうか。
篠田氏 カシオ計算機のモノづくりを振り返ると、かつてはトヨタ生産方式などを取り入れ自動化を推進するなどさまざまな生産革新活動に取り組んでいた。しかし、1980年代以降、プラザ合意などを経て、国内生産がさまざまな条件で不利になっていった。その中でまずは生産の海外移転を進めるようになり、その後は自社生産も縮小しEMSなどの外部委託にゆだねるようになっていった。とにかく経費を使わず安く作るということを重視し、2008年頃には海外生産比率が約90%、EMS依存度が約70%にも達するようになっていた。「決まった商品を効率よく作る」という面だけで考えると、自社で工場を運営するよりもはるかに効率が良かったからだ。
しかし、短期的には利便性はあるものの中長期的な視点で立った場合、設計や製造などモノづくりに関する技術が自社内に残らず、“技術の空洞化”が進んでいった。社内の製造技術力が劣化してしまったために、製造技術そのものが「ブラックボックス化」してしまい、EMSに対しても見極めや指導などができなくなった。結果として、EMSの言いなりにならざるを得ず、品質面が劣化しても改善する術がない状況なども生まれてしまっていた。
さらに、市場環境も変化した。モノが不足している市場環境では同じものを低価格で提供できれば売れるが、さまざまな製品領域で市場の成熟が進む中、より個人のニーズに合わせた多様化が求められるようになった。結果として、“定番製品”が占める割合は小さくなり、同じ製品を大量に安く作るプロダクトアウト型の体制では、消費者からの支持を得ることはできなくなってきていた。
こうした状況の変化が組み合わさり「このままではだめだ」と考え、あらためて自社の技術力で新たな価値を示すために、“モノづくり力”を再構築していく必要があると方向転換を行った。そこで2015年にあらためて山形カシオをマザー工場と位置付けてモノづくりの中心拠点とし、カシオ計算機のモノづくりの在り方そのものを再構築することにした。外部委託から内製への切り替えを進め、あらためて自社のモノづくり技術の向上への取り組みを本格化させた。2017年からは自社工場の自動化強化への取り組みも進め、山形カシオやタイ工場での自動化などを進めてきた。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が広がったのは、こうした成果が生まれ始めたタイミングだった。withコロナやアフターコロナを見据えて働き方そのものが大きく変わる中、モノづくりについても、従来の取り組みの枠をさらに広げ、新たな姿を描くことが必要になった。そこで、モノづくり工程全体をあらためて見直し、サプライチェーンやエンジニアリングチェーンだけでなく、経営視点なども含めた抜本的な改革に取り組むことにした。こうして生まれたのが「全プロセスのスマート化構想」である。
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