スマート化で“空洞化”を埋める、カシオ計算機が描くモノづくり力の復活製造業×IoT キーマンインタビュー(2/4 ページ)

» 2020年10月28日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

カシオ計算機が推進する「スマート化構想」

MONOist 「スマート化構想」は従来のモノづくり革新への取り組みと何が異なるのですか。

篠田氏 「スマート化構想」は、モノづくりに関わる企業としての全てのプロセスをスマート化するという構想だ。製造業である以上、モノづくりの現場は何よりも重要で、中心として「スマートファクトリー」を位置付けるが、スマートファクトリー化で実現したい工場の姿が「需要に合わせて自律的に変化する無人化/省人化工場」であることを考えると、工場の中だけで解決できる話ではない。当然、以前から進めてきたように工場内での自動化領域の拡大には引き続き、取り組んでいく。しかし、その周辺環境の整備も含めて全体的な取り組みを進めることを盛り込んだのが今回の「スマート化構想」だといえる。

 具体的には、「サプライチェーン」領域における資材調達のスマート化、「エンジニアリングチェーン」領域の開発プロセスのスマート化、「マーケット・顧客・サービス」領域の製販プロセスと顧客サービス・物流のスマート化、「経営・事業運営」領域の経営のスマート化という4つの方向性の取り組みを同時並行で進めていく。

photo カシオ計算機が描く「全プロセスのスマート化構想」(クリックで拡大)出典:カシオ計算機

売れないのに生産のストップができなかった反省

MONOist 4分野での取り組みは具体的にはどういうものですか。

篠田氏 「サプライチェーン」については、材料供給の高速化やBCP(事業継続計画)強化、部品品種の削減、部品立ち上げ時間の短縮などを進め、市場の変化に柔軟に対応できる調達体制を目指す。情報を共有可能なシステム構築とそれに伴う体制の変更、サプライヤーとの調整を具体的に進めていく。「エンジニアリングチェーン」は、開発設計段階からシームレスにデータ活用ができる仕組みを作ることを目指している。設計段階から生産段階へのデータ連携を高めることで、ライン構築のシミュレーションなども含めて、デジタル領域で実現できることを増やし、プロセス全体での効率化を進めていく。

 「マーケット・顧客・サービス」領域では、実需に連動した生産投入や製造トレーサビリティー管理、物流のBCPや品質向上などに取り組む。そして「経営・事業運営」では、商品やブランド軸での「ライフサイクルバリュー管理」が行えるようにする。カシオ計算機では合計すると年間に1億個の製品を作っているがそれぞれの製品群がどれだけの利益を生み出しているのかをライフサイクル単位で把握できてはいない。これを見えるようにする。この他、新たなモノづくりにふさわしい管理手法や体制の構築を行う。

 COVID-19での反省も踏まえ、この中でも特に早く取り組むのが「サプライチェーン」と「マーケット・顧客・サービス」の領域での変革だ。COVID-19では、ロックダウンなども含めて市場でモノが売れない状況が生まれた。本来はモノが売れないと分かった段階で生産もそれに合わせて止めるべきだったが、材料の購入や生産はストップがかからずにしばらく続けてしまった。結果として在庫が積み上がってしまった。現在は営業部門と製造部門で毎週、人手ですり合わせを行い、適正在庫を確保できるようになったが、この状況で次に需要が回復した際にアクセルを踏むことができるのかという懸念がある。

 この課題を解決するためには、調達から製造、販売までの一連の情報をまずシームレスに扱えるようにし、人手ではなく自動で連動させて判断できるようにしなければならない。そのための全体の情報システムの連携が急務である。まずは主力の時計事業で、調達段階から含めた生産リードタイムを3カ月から2カ月にすることを目指す。時計は、多品種小ロットで5000モデルほどを展開しており部品種も2万品種以上あるなど、カシオ計算機の中でも最も難しい製品だ。ここで成功すれば、他の製品にも簡単に横展開できると考えている。

 既に2020年6月にプロジェクトチームを設立して準備を進めているところだ。プロジェクトメンバーは生産管理部や資材部、生産企画部、生産技術部などで構成し、2020年度(2021年3月期)中にリードタイムを短縮できる体制を確立する計画だ。

情報連携基盤「カシオサプライチェーンプラットフォーム」を構築

MONOist 生産リードタイムを3カ月から2カ月に低減するためにプロジェクトチームでは具体的にどのような取り組みを進めていますか。

篠田氏 従来は生産計画を3カ月前に作っていたが、これを2カ月にすることを目指している。この計画の中にも従来は「販売根拠がある」という部分と、「人の読み」で決めている部分があり、この「人の読み」が外れた場合、販売効率が非常に悪くなる状況が生まれていた。この「販売根拠がある」領域を可能な限り大きくし、それに合わせた調達や製造が行えるようにするのが理想の姿だ。

 これを実現するには営業の販売計画や、部品サプライヤーとの調達情報、工場の生産能力などの情報を一元的に連携させて管理できていなければならない。以前からこうした狙いは変わらないが、部門ごとにシステムがバラバラで人がそれぞれ集計し、人手で計画を立てる形になるのでどうしても「根拠のない要素」が増えてくる。さらに負荷が大きすぎるので、集計に時間がかかり、タイムリーな判断が行えない。少なくともデータとしては自動で連携できる仕組みが必要だ。

 そのため、サプライヤーとも協力し、共通の情報共有プラットフォームを展開する。情報連携基盤「カシオサプライチェーンプラットフォーム(CSCP)」を内製し、カシオ計算機内の情報の統合とともに、サプライヤーと需要予測や販売情報などを共有する仕組みの構築を進めている。これらにより、生産リードタイムを2カ月に短縮するだけではなく、見直しのタイミングも早める。従来の1カ月ごとではなく2週間ごとで回せるようにし、将来的には週次で修正がかけられる状態にしていく。

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