最後に、定期的な監査をしても発見しにくい不良品の原因を紹介する。
図8の写真を見て、違和感を覚える人はいるだろうか。電動ドライバーを使用して、アルミの押し出し材に板金部品を2本のビスでとめる作業工程に、2人の作業者が対面しているのだ。このように対面して2人で作業する工程は、筆者は過去に見たことがない。板金部品は8個あるため、作業者1人で合計16本のビスをとめることになる。生産が始まって数日後に、ビスが最後までとまっていない、またビスが斜め打ちになっている、という2種類の不良が発生した。筆者が原因究明に当たったが、製造ラインを見た限りは何も問題は見つからなかった。ビスをとめる順番は治具に記載されており、またビス本数もあらかじめ小さなパーツボックスに用意するように作業指示がなされていた。筆者の経験では、これ以上にすべきことはないと思った。
筆者は、確認することがもう思い付かなかったので、ただひたすらビスどめ工程を眺めていることにした。どこかに必ず原因はあるのだ。3〜4時間たったころ、ビスどめ作業者の正面に、別の作業者が現れた。この部品の製造ラインにおいて、このビスどめ作業者の負荷がやや多かったため、この工程に部品が滞ってしまうことがある。多くの部品をこの工程にとどめることはできないので、この工程の上流にいる作業者が手伝いに来たのだ。この上流から来た作業者は、板金部品を所定の位置に仮固定し、電動ドライバーの作業を楽にしてあげようとした。仮固定の仕方は、どこからか持ってきた電動ドライバーの先端のビットを指に持って、ビス2本を指の力でとめられるところまでとめるというものだった。そうすると、電動ドライバーの作業者は、電動ドライバーでビスをとめるだけの簡単な作業になるのだ。
不良品の原因はここにあった。仮固定だけでもビスはほぼ最後までとまってしまうため、電動ドライバーの作業者は、自分が電動ドライバーでとめたのか、とめていないのか、見た目では判断がしにくいのだ。その結果、電動ドライバーでとめていないビスが発生してしまったのだ。また、ビットの長さが50mm程度と短いため、ビスを仮固定する際、自分の持っているビットが斜めになっていることに気付かず、ビスを斜めに仮固定してしまうのであった。電動ドライバーの作業者は、ビスが斜めになっていることに気付かず、そのまま電動ドライバーでとめてしまうのだ。
上流から作業者が手伝いに来るのは1日に1回もなく、このとき筆者は3〜4時間も見続けていたため、たまたま発見できた。日本から監査に行ったとしても発見できるものではない。このような異常作業を未然防止するには、監視カメラによる検出しかないと考える。現在のIoT(モノのインターネット)の時代では可能なやり方である。
最初の2つの治具の話に関しては、設計者が生産開始前に製造現場を確認することによって、容易に対策がとれるものだ。スタッドナットの話は、定期的な監査で発見できるものが多いと考える。そして、最後のビスどめに関しては、現在のIoT技術があれば解決できるだろう。よって、不良品の未然防止方法はいくらでもあるのだ。大切なことは、次の通りである。
1)生産開始前:設計者による製造現場の確認。金型、治具、装置、工具の種類と設定値、QC工程表、作業標準書などの内容を確認する
2)生産開始後:製造工場の生産管理部門による定期監査。治具、装置、工具の種類と設定値、QC工程表、作業標準書などに変化がないか確認する
これは中国に限った話ではなく、タイ、ベトナム、インドなどで生産する場合も同じである。こうした国々であれば安価に部品を生産できるかもしれないが、日本の部品メーカーへ依頼するのと同じようなやり方で、部品の生産を依頼しているようでは、日本と同じ品質の部品を作ることはできない。これは肝に銘じておくべきだ。 (次回へ続く)
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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